第11話

 予想通り、狙いとしては私であるようで、白装束たちは私を優先的に襲いかかってくる。多数対一。大勢に囲まれ、圧倒的に不利な中、魔法をいくつも放たれながらも私は駆けていた。

 当たれば大怪我。もしくは死亡。そんな魔法がいくつも飛び交う。

 私はそれらを避けていく。

 紙一重、髪の毛一本分というギリギリで避けていった。間近を通り過ぎた火の熱が私の肌をわずかに炙る。氷の塊が連続で飛んできて、服を撫でていく。

 だが傷を付けることなく通り過ぎていった。


 本音としては剣で魔法を斬ってみたり、私も魔法を放って打ち消すなんてことをしてみたい。だが大変残念なことにまだそこまでの技量はない。そもそも私は魔法……身体強化や体温調整などのシンプルなもの以外の、例えば火や氷を放ったりなどの魔法が苦手なのだ。下手に使ったところで焼け石に水。全く意味がない。そのレベルだ。

 まぁまだ魔法は学び出したばかりなのだからしょうがないというところはある。

 ただやっぱり、魔法を斬る……これはやってみたい。例えば火を切り裂いて、その中から出てくる。こんなシチュエーション、絶対にカッコいいと思う。


 そんなこんな想像しながら魔法と共に続々と来る剣やメイス、棍棒などを振りかぶってくる白装束たちを処理していった。

 連戦のため体力消費は最低限。

 怪我はゼロ。

 流血はしない。

 それらを心がけながら冷静に処理していった。


 受けて、流して隙を作る。

 周りを囲まれれば、隙間を抜けていったり、カウンターを仕掛けたり。

 振って。

 突いて。

 薙ぎ払う。


 白装束たちの技量は幅広く、素人や素人に毛が生えた程度、ここの先生と同レベル。圧倒的な格上はいないが思った以上に数が多いので、白装束たちに隙間なく包囲されたりしてしまえば流石にキツくなってくる。不利はシチュエーション的にカッコよくて楽しいけど、楽しいは容量を守って楽しまなければいけないものだ。

 そのため私は完全包囲されないように動き続けた。止まるとしても一瞬。動き回り続ける。そしてそれと同時に白装束たちの攻撃の狙いを別方向に誘導させ、白装束同士に当たるように仕向けたり、攻撃しずらいような位置取りをしていった。


 おかげで私と白装束たちとの戦いの流れはずっと私が掌握し続けており、攻撃を仕掛けられるタイミングは完全に私の誘導通りとなっていた。



「あはははは!」


 はっきり言って楽しかった。

 学校襲撃という状況で不謹慎かもしれないがメチャクチャ楽しい。

 思考はどんどん回っていき、迫る攻撃という問題に対して、どう対処するべきかを回答していく。そしてその通りに私の体は動いていき、理想通りの戦績を弾き出していく。

 もう笑いが止まらない。

 体が熱い。

 鼓動が加速する。

 血液の流れが速くなっている。

 体が火照る。

 心が昂りまくっていた。


 これまでの実戦とは違う感覚。

 ある種の無双状態。

 一手でも間違えればゲームオーバー。

 だが正解を選び続ける限り無限に続く無双ゲームをやっているような気分だった。


 対等、もしくは格上との戦いというのも楽しいが、こういった無双状態というのも楽しいものだ。全能感のような爽快感がある。


 それにいくつもの問題が次々に出題され、それに回答していくたびに、自分の経験が積まれていき、次の回答を効率化していく。これもすごく気持ちが良い。

 無駄を省いて動きを選択。

 効率化。

 最適化。

 合理化。

 動きがどんどん洗礼されていくのがわかる。

 そしてそれは私の目指す姉様――カッコいい剣へと繋がる。


「本当にサイコー!」


 私は笑い、叫びながら白装束たちを倒していった。



「レオナ~! 付いてきてる?」


 攻撃を避け、仕掛け、突っ走りながら後ろにいるレオナに時折声をかけた。

 レオナは私の背後、だいたい10メートルぐらい離れたところにはキャンバス片手に、そこへ描きこみながら走っていた。

 私の近くにいることで攻撃が飛んで来たりしているが、それらを見事に回避していた。


「……‼」


 レオナは返事をする暇ももったいないという様子で頷くことを返事にして、絵を描き続けていた。

 私たちが美術室を飛び出してから、レオナは一枚のキャンバスだけに描き続けていた。いつもと同じように高速でペンを動かしながらも、いつもとは違い何度も消し、描き、消し、描き、を繰り返していた。

 その様子に私はどんな絵ができるのかワクワクしていた。


 私はすぐに正面を向いた。

 剣を持つ手の力が強くなり、踏み込む力は倍増していく。

 どんどん駆けていきながら白装束たちを倒していく。白装束が吹き飛んだり、地に崩れたり、倒れて私に踏み越えられていく。

 こういうのを鎧袖一触というのだろう。やっぱりスカッとする。

 そして駆けていくとすぐに寮が見えてきた。


 寮はいつも通りなら人が少ない時間なせいか襲撃していた白装束たちはあまりいなかった。

 ここに来るまでに見たほかの建物は煙を上げていたり、壁や窓が壊れたり、大声が響きまくっていたのに対し、寮は窓ガラスが所々割れたりしている、その程度だ。


 私が駆けていたのは別に白装束たちと戦うためというわけではない。

 ……確かにそのためでもあったが、一番の目的は寮に行くことだ。


「せ~の!」


 私は勢いをつけ、自分の部屋のほうに飛んだ。

 一階、二階、三階と。自分の部屋のベランダにすぐに到達した。

 私は飛んでいった勢いで窓に衝突してしまわないように勢いを殺しながら着地。少し地面が音を立てたが、それ以上は何も起きず、無事着地できた。


 私は防犯を一切意識していないため、窓は開けっぱなしである。


「ただいま~」


 部屋の中は衝撃などによって揺れ、棚に置いていた本や小物などが落ちていたりと床が散乱してしまっていたが、特に誰かが荒らしたとかはなかった。


「う~ん……私が本命なのに私の部屋に待ち伏せとかがいないなんて」


 ここまで大規模な襲撃なのだ。

 ちょっとは内部情報などを得て、私の部屋に一人や二人は待ち伏せしたりしているのかなぁ~と思っていたがそんなことはなかった。

 部屋の中には人の気配は欠片もなく。

 人為的に荒らされた形跡もない。

 待ち伏せが絶対ある。絶対いる。そう期待していたので少しショックだった。


 私は肩を落としていたが、すぐに気を取り直して目的の物を回収した。


「ニッヒッヒ……」


 手にあるのは刀とお面。

 今使っていた剣は刃がなく、決定打というのは欠けている。多分さっき私が倒した白装束はすでに回復、私を探して追いかけているか、暴れ回っているだろう。

 私は刀を腰に、お面を頭に付けて外へ飛び降りた。


「……」

「? どうしたのレオナ」


 地面に着地した私をレオナは何か微妙なものを見る目で見つめていた。さっきまで消すとき以外は止まらなかった描く手も止まってしまっている。


「いや……その……お面は……?」

「ん? これは雨を降らすお面だよ」

「……いやそうじゃなくてそのデザイン。

 何その変なデザイン! ウイといういい素材になんでそんな悲しいというか残念というか……統一感のない変なデザインなのよ!」

「あ~これか~」


 うん、まぁそうだろう。

 やっぱりこのデザイン――へのへのもへじはないだろう、兄様。


「何で? 何なの! 引き締まったボディー! 人形のようにきれいな肌! 整った顔! 黒い黒い、きれいな黒髪! その体から放たれる技たち! 良い素材ばかりなのに何でそうなった!」


 ぐぅの音も出ないほど正論。兄様の擁護は不可能なほどの正論であった。


「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて」

「ふぅ……ふぅ……」


 私はどうどうとレオナを落ち着かせた。

 このまま叫ばし続けたら嬉しいことに白装束が大勢やってきたりするかもしれないが、流石にそれは自重、というか却下である。

 私としてはそういう状況的――アクシデントな不可能の壁ならウェルカムだ。だが自分でつくる不可能の壁というのはなんか違う。こう……なんか……「いざ挑むぞ!」とか、「乗り越えるぞ!」みたいな感じの緊張感のようなピリピリした雰囲気が今一つなのだ。人為的だからなのかあまり面白そうと感じない。


「……」


 レオナの荒くなっていた鼻息が収まった。

 落ち着き、目を閉じ何かを考えている……いや我慢しているようだった。


「落ち着いた?」

「えぇ……落ち着いたわ。……だけどあとでそのお面のデザイン、私が塗り替えるからね!」


 そう叫びながらレオナのペンが再び走り始めた。


「了解了解」


 私はそれに笑いながらそう返事をした。

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