第9話
ドゴーン!
そのとき外から何かが爆発したような音が響いた。その衝撃により窓ガラスがガチガチと震えていた。
「ふにゃ~!」
「わおっ!」
私とレオナはその音に思わず驚きの声を上げながら耳を抑えた。
音はすぐに消えたが、あまりの大きさにまだ耳の方がグワングワンとしている。
「なんだ?」
外を見てみると正面門の方から巨大な土煙が起きていた。いやそれだけではない。何かが燃えているような黒い煙も立ち上っていた。
私とレオナが何だと、首を傾けていると、
ドガンッ!
ボンッ!
バゴーン!
続けざまに激しい音が聞こえてきた。爆発、炸裂、破壊、そんなことが起きていると想像させるのは容易な音であった。
そしてその激しい音の中には人の叫び声が混じっていた。悲鳴ではない。何か怒鳴り散らすような、そんな叫び声であった。
煙の中からはその声の主たちが続々と現れた。
ここからははっきりとは見えないが、皆が白装束を着て手に武器のようなものを持っている。もちろんだが、彼らはこの学校の衛兵ではない。この学校の衛兵は白装束とかではなく、ちゃんとした鎧を着ている。騎士団のほうはそういうのを着ている人もいるかもしれないが、全員同じ格好ではない。
どう考えても侵入者であった。
この学校の警備は確か万全。難攻不落とも言われるぐらいの警備のはずだ。だが今回はその警備が破られてしまっていた。恐らくというか見たまんまだが、数の一点突破によって破られてしまったのだろう。
「いっぱいるね……」
「そうだね……」
大勢の白装束がなだれ込むのを私たちはそんな風に呑気に喋りながら見ていた。
いや、まぁ……こういうときに取るべき行動と言えば避難する何だろうけど……いざ遭遇すると思ったより現実感がなく、呑気な感じになってしまった。
「ん?」
「どうしたの?」
私は強化した視力で白装束たちをよく見てみた。するとあることに気が付いた。
「いや……なんかあの白装束……私たちのほう指さしてない?」
なんだか白装束たちがこの美術室のほうを指さしているのだ。
「いや……まさか…………指さしてるね……」
「でしょ」
「てか走って来てない?」
「走って来てるね」
「飛んできてない?」
「飛んできてるね」
白装束の一人が高く飛び上がり、美術室目がけて発射された。
私とレオナは互いに無言で顔を見合わせた。
「……」
「……」
美術室が静寂に包まれる。
外からは物凄い形相と音と共に白装束が近づいてくる。
「「退避‼」」
私たちはすぐさま窓から離れた。
その次の瞬間、
ガシャンっ!
美術室の窓ガラスが割れる音が響いてきた。ガラスの破片が辺りに飛び散っていく。
白装束は上手く勢いとかを受け流したのか、きれいに着地していた。
「どちら様?」
「……」
私はそう声をかけた。だが返事はなく、無言だ。
私はちょっとだけワクワクしながら身構えていた。手持ちの武器は鍛錬用の剣。鍛錬用なのでもちろん刃はない。一方相手の武器は……多分メイスというやつだ。
武器と見た目が相まって、なんだか宗教関連の人間に見えてくる。
「黒……」
「へ?」
「アマツカエ……我らが主の神敵……」
あっ、これマジの宗教関連だ。
そう思ったときには私は完全に戦闘態勢に入っていた。
身体強化。敵を見据え、攻撃予測。
「神敵撲滅。神敵撲滅。神敵撲滅、神敵撲滅、神敵撲滅……神敵撲滅!」
白装束はそう叫びながらメイスを振り上げ突進してきた。
「……」
私はにやけを抑えられなかった。もう笑い出しそうであった。
体が動く。
「あは……」
体は一瞬で白装束の目の前に移動。
私は笑みを零しながら、剣をメイスの柄にぶつけた。
ガキンという音と共に衝撃が私の手に響いてきた。だがそんなものはお構いなし。私は力を緩めず、一切剣をブラすことなく、メイスを右へ流した。
「あはははは!」
思わず笑いが零れる。
もう我慢の限界だ。
学校への襲撃者。
襲撃者だ。
私は笑い声を上げながら体を滑らすようにして白装束の脇に入れていく。白装束はメイスを戻そうとするが、どう考えても間に合わない。メイスを捨てて肉弾戦に持ち込もうとしたとしても遅い。私の方が早い。
メイスを流した剣が一気に加速して白装束の腹へ叩きつける。
「はぁ!」
「!」
剣が白装束の腹へめり込む。
身体強化で威力もマシマシになっているその一撃は、白装束から悲鳴を漏らすことも許さなかった。
白装束の体が力を失い、床に落ちていく。
私は剣に込める力を緩めず、むしろさらに力を加えて、剣を振り切った。
「かっ、飛ばせ~!」
白装束の体がまるでゴルフボールのように割れた窓へ飛んでいった。
すると続いて飛んできていた別の白装束に幸か不幸か激突。二人まとめて美術室の外に飛んでいった。
「ナイスショット!」
私は飛んでいく二人を見ながらそう言った。
あまりお世辞にも強いという感じではないが、それでも数はたくさんいる。あんだけ大勢いれば強い人の一人や二人は確実にいる。
それにあの白装束。多分アマツカエ家……というか天神様を敵対視する宗教の人間だろう。そうなると狙いはほぼ確実に私。こんだけ大規模な襲撃なんだからそこら辺走り回るだけで大勢釣れるはずだ。そんな大勢に囲まれながら戦う。これもかなりカッコいいシチュエーションだ。
私の口角が自然に上がっていく。
私はこれからの行動を考えつつ、剣を肩に乗せて後ろを向いた。そこには目の前のご馳走を食い尽くさんというような表情で絵を描いているレオナがいた。
「え~と。レオナはどうする? 私はちょっと色々取ってきて、白装束ぶちのめそうかな~て考えてるんだけど」
多分答えは私の予想通りだろうが、一応念のために尋ねた。
「そりゃもちろん付いていきますよ! こんな絶好の絵が描ける場面を逃すわけはないでしょ!」
予想通りの返答であった。
「じゃあ私はあの白装束たちの中に飛び込んだりするけど……」
「怪我しない距離で追いかけるんで大丈夫!」
私はその言葉に感心しつつ、扉に手をかけた。
「じゃあ楽しみに行きますか!」
出来上がる絵を楽しみにしながら、私は美術室を飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます