第3話
あぁ……きれいだなぁ。
私はその光景に目を奪われていた。
周りの人たちもそれに目を奪われている。
その感想は私とは少し違うかもしれないが、それでもみんなの行動は同じだった。
剣を振る動きが止まる。
足音が止まる。
人がぶつかり合うのが止まる。
みんなが行動を止めている。
みんな目を奪われている。
流れるような剣の動き。
人形のような白い肌。
呼吸は荒れてない。
動く度に髪が舞う。
容赦のない攻撃。連撃。
その結果を私たちは知っていた。
知っていたが、結果は想像以上であった。
私たちは目を奪われている。
その剣に。
その姿に。
その技に。
それら全てに見惚れている。
あぁ……ほんとうに美しい。
私が彼女のことを知ったのは入学したときであった。
彼女の名前は私たちとは違い、名前・苗字ではなく苗字・名前だったのと、黒い髪を持っていたため、すぐにどんな家の人間かはわかった。周りの人たちもわかっていた様子だった。
その家――アマツカエ家はかなりきな臭いうわさが多く、その上かなりの権力を有していたため、みんな近寄らなかった。
もしかしたら危ない思想を持っているかも。
もしかしたら危ない人間かも。
もしかしたら傲慢な人間かも。
そんな風にみんな思っていたからだ。そして私もそう思っていた。
みんな遠見な感じで、離れて観察していた。
そんな彼女の印象が決定づけられたのは初めての剣の授業のときであった。
その授業ではまず、この授業ではどんなことを学ぶのかを先生が教えるため、生徒の誰か――剣をしっかりと学んでいる子と少し打ち合いをして見せようとなった。
その生徒になったのが彼女だった。
彼女は授業前からどこか楽しそうな様子であった。私たちはみんなそれを不思議に思いながら見ていた。
剣を構えた彼女は途端に空気が変わった。何と言えばいいか……そう、なんだか抜き身の刃みたいな……そんな風に感じた。
そして打ち合いが始まった。
彼女が仕掛け、先生が受ける。
先生が仕掛け、彼女が受ける。
彼女が仕掛ける。
先生が受ける。
それが何度も繰り返された。
だんだんと先生の顔に汗がにじみ出てくるのに対して、彼女は一切汗をかかない。楽しそうに剣を振るっていた。
彼女は先生に引けを取らない――いやそれ以上の実力者だった。
剣を見ればその人の心がわかるなんて言葉があったりするけど、本当みたいだ。
私たちは彼女の剣を振るう姿、そこからは純粋に楽しいという思いを嫌というほど感じていた。
そして打ち合いが終わるころには私たちは、彼女は別に悪い子ではないということに気づいていた。
家の噂など関係ない。
彼女はそんな人間だと。
だが同時に、彼女と剣を打ち合うこともできないとも思っていた。あまりにも強すぎる。打ち終わった先生が肩で息をしているのに、彼女は平然と立っていたからだ。
授業終わり、誰かが彼女に話しかけた。
彼女は気兼ねなく返事をした。
私たちは自分たちが抱いていたのは完全に偏見だったのだと理解した。
するとほかの人たちも話しかけようとした。
主に男子たちが。
まぁ、あの見た目からすれば当たり前だ。私たちからすれば見慣れない、髪色ではあるが、そこを気にしなければかわいいとしか言いようがない容姿だった。
人形のような白い肌。透き通ったようにきれいな黒い瞳。凛々しさを感じられる整った顔。身長は平均的に見ると少々小さいが、逆にそれがかわいさを引き立てている。
私もかわいいと思った。思わず絵にしたいと思ったほどだ。
男子たちは下心丸出しの様子で話しかけようとしていた。
だがそこに待ったをかけたのは突然やって来た、第一王子たちだった。彼らは彼女に近寄ると、そのまま絡みだした。彼女は第一王子たちに悪い意味で目を付けられていた。
すると話しかけようとする人たちはいなくなっていった。当たり前だ。この学校には権力は届かないと言っても、王子に目を付けられるのはみんな嫌だった。
私たちはそれまで通り離れて見ているだけとなった。
ただし私はちょくちょく、剣の授業で彼女とペアとなって、彼女と関わっていた。
近くで見ると本当にかわいかった。
そして今日。剣の授業が王子たちと合同となったときに戻る。
王子たちは授業を放り出して、どこかへ行ってしまった。
彼女はいつものように先生と打ち合いをすることになっていた。
みんなはもう打ち合いを再開している。
だけど私だけはまだ再開せず、彼女を見ていた。
ペアの子が私に何か話しかけてくるが耳に入らない。
彼女を見続ける。
周りを気にせずに見続ける。
なんとなく嵌るような気がしたが、今日のことで完全に嵌った。
ついに見つけたんだ。
私の画題。
私のモチーフ。
私のトピック。
私のサブジェクト。
私のテーマ。
私だけの
少女はアマツカエ・ウイを妖しく見つめていた。
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