第1話
私がセオス王立学校へ入学して2週間が経ちました。
いや~本当にここは良い学校である。本当に、マジで、良い学校だ。
食事は屋敷と変わらないくらいうまいし、図書館には大量の本がある。その量は屋敷にある量以上。ジャンルも幅広く置かれ、目が輝きまくった。授業も結構面白い。
文句なしの良い学校である。
ただしちょっとだけ私は現状に不満があった。
学校の環境は文句なく最高だ。
学校に対しての評価、それは変わらない。
だがそれ以外。
私の周り。
私を取り巻く環境が不満なのだ。
過程はすっ飛ばし、答えだけまず言おう。
現在私、ボッチとなっております。
* * *
なぜボッチ?
何かやらかしたのか?
誰振りかまわず襲いかかったりした?
バーサーカーみたく暴れ回った?
それとも孤高の人みたいなことをやっているの?
誰にも心を開かず、窓際でいつも一人でいる人?
などと思われたかもしれないが全くしてない。
全然、全く、一切、そんなことはしていない。
そんな面倒なことは一切していない。
なぜか。
どうしてか。
それは私の家――アマツカエ家のせいである。
一応先に言うが、アマツカエ家が何かやったという訳ではない。それにアマツカエ家だけが悪いわけではない。
なぜなら周りがアマツカエ家を嫌っているためだ。
なんで嫌われているのか。
それについて説明すると、前にも言った通りアマツカエ家は元々東からやって来た先祖が発端となった家だ。そのため元はここ――セオス王国の人間ではない。いわば部外者なのだ。そんな部外者が自分たちの神様に仕えている。その時点で良い思いをしていない人間は当時ではそこそこいた。
そして時代が流れていき、その悪感情もだんだんと変化していった。
始めはなんで部外者の人間なんかが私たちの神に仕えているんだというものだったのが、そこからアマツカエ家そのものを嫌う感じに変化していったのだ。
そうなった原因としては前にも言ったが、アマツカエ家はこの国の王様と対等に話せる地位を持っている。普通そんなことをできる者はほとんどいない。できる者は長年国王と信頼関係を築いた者ぐらいだ。
なのにアマツカエ家は特殊な例外となっている。アマツカエ家というだけでその過程を飛ばして、対等になれるのだ。
普通に考えて嫌だろう。
そして実際嫌なのだ。
その結果がアマツカエ家嫌いだ。
しかもアマツカエ家の人間の髪は黒みがかっている。
それも自分たちとは違う、ということで嫌われるのに拍車をかけていた。
昔あったというアマツカエ家何もしてない批判。
あれも根っこはこのアマツカエ家嫌いから来たものである。
そういう訳で私は嫌われている家の人間ということで近づかれることがなく、悲しいかな……ボッチとなってしまったのだ。
入学前から姉様にこのことは聞かされていたので何となくはわかっていた。
それに別にボッチぐらいで傷は付かないし、それで夢が終わってしまったり、死んだりするわけではない。
しかし……、やっぱりこの遠巻きで見られたりして、何か陰でコソコソ言っているこれ。気分が悪い。気にはなんないのだが、良い気分ではない。
そこまで考えていると正面から足音が聞こえてきた。
「うげっ」
それを見たら思わずそんな声が出ていた。
正面から来た人間は、私に気づくと露骨に嫌な顔をした。そして敵対心をむき出しにして、背後にいる二人を引き連れて歩いてきた。
「誰かと思えば黒髪じゃないかぁ」
私に黒髪とあだ名をつけて、呼ぶ男。
きれいな金の髪。整った顔立ち。いわゆる女子がキャーと喜びの悲鳴を上げるタイプのかっこよさ。着ている服は私やほかの人たちと同じ制服のはずなのに、一人だけ別の服を着ているかのように感じさせるほどの雰囲気というやつを纏っているこの男。
私がここまでのボッチになった原因。
国一のアマツカエ家嫌い。
セオス王国第1王子、アロガンス・セオスがいた。
「今日も一人寂しく生きているのか?」
「まぁ……一人でいるのはそこそこ好きですので……」
「はっはっは。そうか一人が好きなのか。おーい! 皆のもの、聞いたか? この黒髪は一人が好きなんだそうだ。だったら俺たちはこいつを一人にさせてやろうではないか」
これである。
私のボッチ。
こうなったのはこいつのこれのせいである。
ここセオス王立学校はよくあるあらゆる権力の影響を受けず、この中では皆平等というやつなのだが、そうだとしても普通に意識する。自分より上の立場の人間とも対等? 変なことしてみろ、卒業した後何されるかわかったもんじゃない。ということであってないようなものだ。
そしてこの第一王子。そんなことはしっかりと知っている。ここでの自分の言葉にしっかりと権力があるのを知っている。
そしてしっかりとその権力を利用した。
結果、別にアマツカエ家嫌いでもない人たちも私を避けるようになった。
「良かったな。これでお前はいつも一人でいられるぞ」
私に会う度にこいつはこんな風に叫ぶ。
周りは無理にそれに逆らおうとせず、従う。
結果私のボッチ化ということである。
本当にめんどくさい。
「ん~。どうした喜びで声も出ないのか? はっはっは。それは良かった良かった」
違います。呆れて声が出ないのです。
だがそうは口には出さない。
こういう類の輩は適当に流す。それに限る。私は屋敷での胡麻擦りたちからしっかりと学んだのだ。
アロガンスは私が反応をしないのに気分が良くなったのか、気分良さそうに話し始めた。
「黒髪にこんな良いことをしてやるとは、私は良き人間でないか?」
「そうですね。アロガンス様」
「ですね~ですね~」
背後で控えていた筋肉も顔も岩石みたいにゴツゴツした感じ赤髪男。フェルゼン・ファーリス。
何ともやる気を感じられない覇気のない声が特徴の男。ビエンフー・ミニストロ。
彼らはうんうんと頷きながらアロガンスに同調した。
フェルゼンは別にアマツカエ家嫌いという訳ではないが、姉様が騎士団でフェルゼンの父よりも高い役職にいるということで姉様を目の敵にしており、なぜか私も嫌っている。
ビエンフーは……良くわからない。
自分からは何かしてくるわけではなく、何か敵対的な目で見るわけでもない。いつもアロガンスの太鼓持ちをしている。
私が呆れ、ジト目で見ているのも気にせず、男三人衆は好き勝手に話し始めた。
「だいたいアマツカエ何かが父上と対等に話せるのがおかしいんだ」
「全くです。それに我が父よりも上の立場にいる!」
「そうだ。あの女……少し強いからって、調子に乗っているのではないか」
「そうに決まっていますよ、アロガンス様」
「ビエンフー、貴様もそう思うだろ」
「そうですね~。全くもってその通りですね~」
もう私ここにいなくても良いのでは。そう思い始めてきた。
ここではもう日常と化したこの光景に、周りの人たちは特に気にせず歩いていく。
「だいたい父上も父上だ! こんな何もしない奴らを国に置いて!」
「そうですね~」
「昔は偉大だったが、今はもう老いてしまったのだろう。私が早く跡を継いでこの国からアマツカエを排除しなくてはならない!」
「そうです! そうです! アロガンス様は本当に素晴らしい人ですね!」
「ああ。ああ。そうだろう。ビエンフー、貴様もそう思うだろう」
「そうですね~。全くもってその通りですね~」
「そうだろ、そうだろ」
彼らはどんどんヒートアップしていく。
騒がしい笑い声が廊下をこだまする。
もはや私がいることも忘れ始めている。自分たちの声しか聞こえていないだろう。
「はぁ、めんど……」
私は彼らに気づかれないように影を消してここを去ることにした。また認識されてみろ、面倒くさいほど絡まれる。
自身の体を魔力で強化する。
地面を踏みしめ、
「……!」
一気に加速。
風も音も起こさないように駆けていく。
私は姉様に習った歩法で去っていった。
後ろではまだ元気に騒いでいる声が聞こえていた。
本当に飽きない人間たちである。
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