2章
プロローグ
厳しい寒さは去り、暖かな風が吹き始めた。
太陽は季節が変わったことを知らせるかのように、暖かく大地を照らす。
地面の下で眠っていた生き物たちはとっくにそこから這い出て活動を始めている。新芽が出てきており、つぼみだったものはわずかに開き始めた。
木々や生える植物たちは緑に染まっていく。
太陽の日に照らさ、生きるモノたちは生き生きとしていた。
少し前までの厳しさなどなかったかのように生命に満ち溢れていた。
春。始まりの季節。
動植物がそうやって活動し始めている頃、セオス王国内でも彼らと同じように活発に動き出し始めていた。
セオス王国の中心。
『ケセム』。
そこは数多くの店が並び、人々が活気良く生活する都市である。人々の声が都市中で響きわたる、そんな都市である。しかし、そんな都市も冬の間だけは違う。
セオス王国特有の寒さと大雪のせいで皆家に引きこもり、暖炉の前で生活をしていた。
しかしその寒さは去り、雪が融けたことで皆家から出てきていた。
閉まっていた店は埃を被ったドアノブを下ろし、扉が開けられ。
子供たちは引きこもっていたことで溜めていたモノを発散するように走り回る。
そしてそんな場所の少し外れたある場所では若人たちが忙しなく走り回っていた。
その場所は広大な面積を所有し、大小さまざまな建物が並び立っている。
その中にひときわ大きな建物――王宮に比べればいくらか落ちてしまうが、それに決して引けを取らないぐらい大きく、豪華、壮大な建物が建っている。
敷地内の中のあちこちをでは若人たちが走り回っている。
荷物を背負って駆ける者。
大量に用意したチラシを持っていく者。
これから来る者たちを向かい入れる準備をする者たち。
そしてそこの門に向かって歩く大勢の人。
セオス王国だけでなく、外の国からもやって来ている者がいる。彼らの目的は皆同じである。
夢を抱く若人たち。
野望を抱く若人たち。
青春を楽しみにする若人たち。
皆が胸を高鳴らせながら足を踏み入れていく。
在校生たちは新入生を迎えるためにせっせと準備。
新入生たちは周りにあるものに目を光らせながら門を潜っていく。
ここはセオス王立学校。
魔法を学び。
武を学び。
友を得る。
自身の知識を高め、体を鍛え、心を学ぶ。
セオス王国随一の学校である。
そして新たに門を潜る、新入生たちの中には彼女の姿もあった。
自身の姉と同じようにまとめられた一本の髪。それは歩く度に尻尾のようにフッサフッサと揺れ動く。腰に携えた刀を大事に、大事に、撫でまわしながら歩いていく。
その心の中は、周りを行く者たちと同じく、胸高鳴らせていた。
* * *
皆さまお久しぶりです。アマツカエ・ウイ15歳です。
暖かい風が吹き始める季節になってまいりました。
空を見上げれば快晴。雲ひとつ見当たらない見事な快晴である。太陽の日がポカポカと私を温め、なかなかに気持ち良い天気だ。
ちょっと前までは雪が残っていたんだけど、暖かくなってきたら一気に融けて、跡形もなく消え去ってしまった。まぁ、鍛錬をするなら冬よりは今みたいに暖かい季節の方が良いので、私としては嬉しいことである。
あれからずっと姉様にみっちりと鍛えられました。打ち合いは何度もして、ついでに魔法の使い方も習った。
そのおかげで今では体温調整や身体強化の長時間維持ができるようになったのだ。
しかし季節は本格的に冬になったせいで鍛錬時間は減ってしまったのでした。
トホホ……である。
まぁあの中にいるのはホントに寒い。死んでしまう。
屋敷がある所が標高のそこそこ高い山の上というのも原因であるが、それ以上にこの国特有の嫌な気候だ。
この世界、前に冬と言ったように四季がしっかり存在している。
春、夏、秋、冬としっかりと別れている。
夏冬は本当に鍛錬の敵の季節だ。
夏は暑苦しく、汗がダラダラ。体温調整ができるとしても暑いもんは暑い。外から加えられる熱が暑いのには変わりない。
そして問題なのが冬。
冬は言わずもがなもちろん寒い。
本当に寒い。
死人が出るくらい寒い。
冬の初めの方はそこまで寒くなかったのに、中盤になった途端一気に寒くなった。そして終盤になると私の体温調整の魔法でも温めきれないぐらいの寒さと化すのだ。
その上雪はどんどん降り積もる。下手に外を出歩くのは自殺行為というぐらい積もりまくるのだ。
こういう時こそ天神様に頼み込んで、神様パワーで何とかしてほしいのだが、特に大変化とかは起きない。天神様、冬は眠っているらしい。本当に役立たずの神様である。そんなだからアマツカエ家が何もしてないと言われたりしたのでは……とそんな風に思わずにはいられない。
まぁ、天神様の話は置いといて。
冬はそんななので今の季節、春というのは絶好の鍛錬季節なのである。
いつも通りならば屋敷の鍛錬場で朝から晩まで剣を振るっている。それに今は次期当主が姉様に決まり、当主争いが終結した。そのおかげで胡麻擦りも減った。ほぼいないという感じだ。
邪魔する者は誰もいない。
普通なら、そんな状態なら私は剣を振るっているはずではあるが、実は違う。
私は剣を振らず、ある場所にやって来ていた。
そこはセオス王立学校。
私は今年15歳。学校に通う年齢。そして今日がその入学式なのだ。
周りには私と同じ新入生が大勢歩いている。
目に映る髪の色は、金、銀、青、赤。もうカラフル、鮮やか。目に映る髪の色だけで絵が描けそうである。
その中でポツンと浮かぶのは私の黒色の髪。
このセオス王国、髪の色が黒というのは結構珍しい。大抵は周りのような色だ。
それもそのはずだが、この黒髪というのはアマツカエ家の髪の色で、黒味のある髪を持っているのは高確率でアマツカエ家の縁者なのだ。
私は母親譲りの黒髪で、アマツカエ家の血を濃く引いている。姉様が銀髪なのは、父親譲りのものだ。
そういうわけで私の黒髪はとても目立つ。
周りからの視線がビシビシと刺さってくる。
その中には嫌悪や敵対的なものもあるが気にしない。
周りなんかを気にせず、私は目を輝かせていた。
屋敷内ではこんな風にカラフルではなかった。なにせ屋敷にいる人間は大半がアマツカエ家の縁者である。そのため黒髪や灰色というように、黒かかった地味な髪色が多い。
なので私にとってこんな光景は結構珍しいものであった。
いつも黒っぽい色ばかり見ていたので、魔法はある世界だったりはするが、人は前世とあまり変わらないのだなと思ったりしたが、こうやって見るとやっぱり異世界だなぁと思わせられる。
それに目の前に建つ建物だ。
豪華。
壮大。
煌びやか。
そんな言葉が思い浮かぶぐらい立派な建物である。
セオス王立学校の校舎はまさに学校という感じの構造をしており、中央辺りにはとても大きな時計が付いてある。装飾もしっかりと施され、厳格な雰囲気を感じさせる。
校舎の左右には他にもたくさんの建物が見えている。
研究棟や闘技場。
図書館。
食堂。
様々な花がある庭園などなど。
多くの建物がある。
全てがこの学校の生徒たちのための建物である。
その光景はとてもワクワクさせられる。
ここなら姉様の言う通り、もっと強くなるためのことを学べる。
私は胸を躍らせながら歩いていった。
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