第4話
皆さま方、お待たせいたしました。私の療養&面会謝絶が見事本日、終了いたしました。
いえーい! やっほ、やっほー!
……。
……。
喜ばしいことではあるのだが、やっぱり不思議なのだ。
何が不思議かと言うとあの医者の様子。前はあんなに心配しまくっていて、むしろ鬱陶しいと感じるぐらいにはうざ……失礼。心配してくれていたんだが、今日朝一で急に現れて、「もう療養しなくて大丈夫。面会謝絶も大丈夫。じゃあ元気でね」って言って帰っていったのだ。
はっきり言って変わりすぎで怖いぐらいだ。
医者の顔、ちょっと引きつっていたし。
……。
もしかしたらホントに大丈夫になったのかもしれないんだが……。いや、ちょっと気にしすぎだとは思うんだけど、姉様に聞いた次の日の朝一番に言われるとなんか因果関係を感じ…………。
……。
……。
うん。この話は止めよう。流石になんか変なことはやっていないはずだし。たまたま。そう、たまたま。たまたまと言ったらたまたまなのだ。
……。
……。
では話を変えて今度は、剣の話だ。
昨日私は姉様に剣を教えてと頼み、見事了承を得たのだ。
よっしゃ! ブイっ、ブイー。やはりシスコンの類はちょろいぜ。
さて、さて。なぜ急に剣というほど急ではない、やっぱ急ではあるか。
兎も角私は剣を学ぶことにしたのだ。なぜ剣を学ぶか。それはもちろん夢のため。『雨の中でカッコよく刀を振るうという夢』のためだ。
現在の私はまだ魔力を扱えず、そこら辺の練習はまだできない。
ではできるようになるまで何もしない……というわけにもいかない。そんな怠けていたら夢を叶えるなんてもってのほか。それまでの時間を有効活用しなければならない。
何もしない。怠けている。できるまで待つ。
そういったことは簡単に夢を鈍らせ、腐らせてしまう。除草剤のようなものだ。
せっかく抱いた夢なのだ。ならば腐らせたりせず、叶えたい。
そこでなにをするか。やっぱりそれは剣の稽古だ。
魔法が使えるってなったときに剣の腕がダメダメではアウト。夢にとって一番重要なのは剣なのだ。
剣の技量というのは才能というのもあるかもしれないが、それでもやはり練習。どれだけ練習し、鍛錬し、剣を振るったのかにかかっている。
今から鍛錬したほうが、魔法が使えるようになった後から鍛錬するより強くなれる。
それにせっかく目標の剣がすぐそばにいるのだ。しっかりと学ばせてもらわないと損である。
もしかしたら意外と剣の才能があったり、なんてこともあるかもしれない。あったらうれしい。
* * *
ていうわけで鍛錬場にやって来ました。
メチャクチャ広い。見た目としては、前の世界で言うところの剣道場とほぼ同じ感じであった。ただし、置いてある剣は竹刀ではなく、練習用の模造剣。残念なことに模造刀はありませんでした。
私は少し残念気味に模造剣を姉様から受け取った。
ちなみに私たちの格好は道着というやつだ。私は白、姉様は黒。道着の色は柔道とかの段によって色が変わるのと同じ感じだ。最高位は紅でその下が紅白。姉様はその下。上から三番目だ。
この若さでの黒道着らしく、最年少&最速獲得と家で話題になった。
それにしても姉様の銀髪に黒い道着というのはなんともいえない良い感じのバランスで、大変似合っている。本当にカッコよかった。
もちろん私も、自分で言うのはなんだが白道着は似合っている。かわいいと感じる。だが、やはりまだ幼さを感じるせいで、かっこいいではなく、かわいいという感じなのだ。早く成長がしたい。かっこいい感じに成長したい。
「準備ができましたよ。早速始めますよ」
「わかった」
余計なことを考えるのは終了。
ではでは稽古の時間の始まりだ。
「ではウイ、まず剣の振り方を教える前に、一つお話をします」
「?」
お話とは何だろうか。剣のなんか道とか、そこらへんの話だろうか。
私は姉様の言葉にコテンと首を傾けた。
姉様は少し顔を赤くした。すぐに顔が天井を向き、ハァハァと荒い呼吸をしていたが、少し深呼吸をしているとそれは落ち着いた。
そして顔を下ろし、まだ少し赤みが残っている顔で神妙な表情をすると話し始めた。
「まずこれから教える剣は強いです」
姉様が言うとなかなかに説得力があった。
「ですが、強いからと言って勝てるというわけではありません。実際に戦いの場、となるとそんなものに拘っている暇がないという場面に遭遇することもあります。
じゃあ、我流で良い、好き勝手に剣を振るうのが良いというわけではありません。確かにそっちの方が効率的と考える人はいますが、私はそうは思いません。むしろそういうときこそ技を、自分の学んだ流派の技を使うのが良いのです。
技というのは長い時間をかけて、先人たちが学んだことを集めた結晶。大変なときこそ学んだことを。ということです」
そこまで言うと姉様は一度話を区切った。そしてニコッと微笑みながら言った。
「つまり何が言いたいのかと言うとね、ウイはこれから学ぶことをその意味を考えながら覚えてほしいのです。覚えるだけでなく、意味も理解する。それによってその技は必ずウイのことを守る技になるのですから」
わかりましたか?
そう言った姉様の言葉に私は自然と「うん」と答えていた。
* * *
私が学ぶ剣。それはアズマ流と言う流派だ。
この流派は受けは堅実に、そして相手の隙を狙い果敢に攻めるという感じだ。もともとこのセオス王国にはなかった剣ではなく、祖先の人が使っていて、伝えたものらしい。
ちなみに普段食べている和食モドキも祖先の人が伝えたものらしい。
祖先は東から来た巫女だとか、和食モドキ、日本語みたいな言葉。日本要素が多い。もしかしたら祖先が来たのは前世の日本みたいな国なのかと思うようなものである。
もしかしたらそうなのかもしれない。
今度姉様にそこら辺のことを聞いてみるか。
まぁ今はそのことではなく剣のことだ。
まずこのアズマ流には基本の二つの型がある。
一つは地の型。
下段に構え、相手の動きに反応し、適宜対応していく。
実戦の際は重い剣をずっと構えなければならないという場面もあったりする。そういう時に緊張しすぎず、また疲れにくく構えられるという型だ。
その構えからの下からの切り上げや下半身への攻撃となる。
ある意味もっともシンプルで、複雑ともいえる型である。
もう一つは永の型。
これに関しては良くわからないらしい。
なんでも祖先が使っていた型というのは、この型らしいのだが、それ以外に使う者がいなかったのか、それとも祖先が教えなかったのか。ほとんど伝わっておらず、唯一伝わっているのが永の型という名前だけならしい。
すごく興奮する型である。
もしこの型を私が復活させれたら……。
いやいや、それは凄く良いが、やはり姉様の剣だ。あのきれいな剣を使えたらどう考えてもかっこいい。
永の型は気が向いたときに調べてみる感じで良いだろう。
姉様は流派の説明をすると、簡単に地の型を見せてくれた。
自然体な状態から想像の攻撃を次々に受け流していく。
体はほとんどその場から動かず、音も立たない。
きれいな動きだった。
そしてそれが一変して攻撃へと移り変わる。
切り上げ、そこからの流れるような連撃。
胴の辺りを切り抜きながら駆け抜ける。
連続の突き。
先ほどとは違う激しい動きだった。だが無駄がない動きでもあった。
先ほどが静なら、今は動というように両極端であった。
その動きはかっこよかった。
私は姉様の動きに見惚れていた。
ほんの僅かも見逃さないように目を見開く。
目に焼き付ける。
脳裏に刻み込む。
まるで長い時間見ているように感じた。
やがて姉様の動きは止まった。
剣を下段に戻し、フッと息をつく。そして構えを楽にした。
「ひとまずアズマ流はこんな感じよ。どうだった?」
「きれいだった! すごくすごくきれいだった! それにかっこよかった!」
私は思わず悲しいほどに少ない語彙で称賛の声を上げた。
姉様はそれに少し照れくさそうな反応を返した。
「ウイもできるようになるわよ。なんて言ったって私のかわいい妹なんだから」
そう言いながら姉様は私の髪をゴシゴシと撫でた。
私は恥ずかしさを感じつつも、剣のことに思いは引っ張られていた。
「じゃあ、じゃあ。姉様、早く教えて」
「そうねー、本当はそうしたいけど、その前に……まずは体づくり。ちゃんと体力をつけて、しっかりと剣が振るえること。それができなきゃダメよ」
その言葉に確かにとなった。
前世で学生だった頃、体育で剣道の授業があった。そこで竹刀を持った時意外と重いということに驚いた。それにそれを振るうのも疲れた。
そんな記憶たちが脳裏にモヤモヤと思い出された。
実戦ともなれば竹刀より重い鉄だ。
ちゃんと振る、そして維持する体力・筋力がなければ実戦で戦うことなんてできない。
てか、それができなければ、あんなきれいでカッコいい剣も振るえない。
納得しかない。納得しかなかった。
ちょっと興奮して焦りすぎていたようだ。
「うん、わかった」
「よしっ。じゃあ、まずは走って、その後少しだけ剣を振りましょう」
「はーい!」
私の夢への一歩。
まずは剣を覚える。それが今日始まったのだ。
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