第41話 橋爪直人、ホームレスでいたかった

お金はある。

家だって買える。

だけど、心はいつも満たされなかった。

兄の嫁には、ホームレスなんてみっともない事をしてないで、家に来いと誘われた。


ホームレスは家がない。

だけど、お金をもってるホームレスだっている。食べるものにも困らない。

家なんてものーー俺には必要なかった。


ホームレスガリ。

一時はそんなものも流行ったが、俺には関係なかった。


だからこれまで20年あまり。

家のない暮らしを続けてきた。


どうしてこんな異常な人間になってしまったのだろう?


どうしてこんな人の罪をも被れてしまう人間になったのだろう?


俺は、たぶん普通の人間ではない。

何がキッカケでこんな男に成り下がったのか?

それはわからないが。


ホームレスでいる自分が好きだ。

自分の事を、人が気にしない。

放っておいてくれる。

ホームレス仲間は、お互いの事に無関心だ。

そこが気楽だ。


だが、今回は違うだろう。


殺人者としての俺を迎え入れてはくれないだろう。

もういっその事、死刑にでもなった方がーー。


橋爪はそう思っていた。

ホームレスは仲間意識が高いが、この場合、俺の居場所はもう残されていないだろう。


家族もホームレス仲間も、離れていっただろう。


漠然と橋爪はそんな事を考えていた。


「ーー橋爪直人」


看守さんの声が響いた。


「ーー面会だ」

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