第16話 橋爪直人

あれは俺がまだ高校生の頃。

バイトを始めたばかりで、受かれていた。憧れの社会人になったという事に俺は、はしゃいでいた。

そんな時、橋爪直人はしづめなおとと出会った。


初めてのバイト先は、軽食店だった。

たこ焼きや、ラーメン、お好み焼きなどを提供する。

そんなお店だ。


橋爪直人はその時、その店「ヤモメ」の経営者兼店長だった。


「ーー本日からお世話になります。山崎拓海です。初めてなのでわからない事ばかりですが、いろいろと教えて下さい」


拓海は緊張した面持ちで自己紹介をすると、深々と頭を下げた。


「ーーこれから頑張ってくれよ!」


そう言って、橋爪直人はしづめなおとが、拓海の肩に手をのせる。


そんな風に言われて嬉しかったのもあり、店内の雰囲気の良さもあり、拓海にはこれからの未来に希望しか見えなかった。


ーーこれからは、ここで頑張ろう。


拓海はそう誓った。

だが、頑張ってはいても、空回る事が多く、接客業は短気な拓海には難しい、と痛感した。

所謂クレームだ。

その対処をするにも上手く出来ず、言葉足らずな拓海は、お客さんを更に戸惑わせ、怒らせる。

そんな日が続いた。

頭を抱える拓海に、橋爪直人はしづめなおとが言う。


「拓海、、お前な。クレームの処理とかしてる場合じゃないだろ?お前は俺が雇ってるんだ、、。クレームの処理は俺に任せろ!だから、お前は、お前に出来る事をしろ!」


橋爪直人はしづめなおとのその一言で、俺はもう一度、俺にやれる事をちゃんとやろうと思った。

あの時の言葉ーーそれだけが俺の心の支えだった。



橋爪直人はしづめなおとはそれからしばらくして、行方不明になった。

夜逃げをする様にーー。


行方不明になった彼を俺は探していた。だが、彼はなかなか見つからなかった。

そんなある日、街をフラフラと歩いていると、彼を見つけた。


彼は昔の面影はあるものの、ホームレスに成り下がっている。


ーーまさか、この人が橋爪さん?


半信半疑で、俺は彼に近寄った。


「もしかして、橋爪直人さんですか?」


突然、声をかけられて驚いたのだろうか?彼の大きな目が、余計に大きくなった様な気がした。


「ーーそうですが、あなたは??」


「忘れちゃいました?高校生の時、初めてのバイト先の「ヤモメ」では、お世話になりました。


「あぁーーあの時の、、随分と大きくなって」


「ーーそれよりその姿どうしたんですか?」


「ーーどうもこうもないよ。俺はあの時貯めたお金は今でも持ってる。だが、仕事をする気になれなくなっちまったんだーーだから、家を借りるのもめんどくさい。もう普通の暮らしには戻りたくないんだ!」


彼はそう話した。


「一体、何があったんです?」


「いろいろとな、、現世に嫌気が差しちまってな、、」


それ以上、彼は話してくれなくなった。

だが、何かがあった事は明白だった。一体彼に何があったんだろうか??

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