第17話 彼女(笠原佐知子)
18歳の夏の暑い時季だ。
俺はぶらりと居酒屋へと立ち寄った。
バイトの疲れを取るには、酒が一番だと思っていた。日本酒じゃなくてもいい。ワインでもビールでも、それこそ酎ハイでもーー。
毎日の様にアルコールを摂取して、毎日の様に酔っぱらっていた。
あの時から俺は既に、アルコール依存症の様になっていたのかも知れない。
「ーーあんたさ、飲みすぎだよ!」
ただアルコールを飲んでいる事を、俺は初めて咎められた。
相手はソバージュに近い様な髪型で、ハイヒールのせいか、身長が高く見える。
なかなかキレイな人だと思った。
「ーー放っとけよ!俺の事なんか、、」
酒の勢いもあり、俺は相手の女性に絡んでしまった。
最低な出会い方だ。
特別、何があった訳でもない。好きなお酒を好きなだけ飲んで、何が悪いのか?と思っての事だった。
「ーー何があったか、知らないけどさ。飲んで何が変わる?何でそんなに飲んでるの?」
「何もないよーーただお酒が好きなだけ」
俺はそう答えた。
本当にそれだけだから。
「そう、、私はお酒が好きだけど、グデグデになるまで酔わないよ。あなた、今グデグデじゃない??ーー飲み過ぎだと思うよ?」
そんな話をしているうちに、俺はテーブルに突っ伏して、眠ってしまった。
「お客さん、、閉店ですよ!」
従業員からそう言われ、何とか起きるとお会計をして外に出ようとしたその時。
「お客さん、、すいません。先ほどの女性を覚えてますか?」
「あぁ、、何となくーー」
「彼女がこれを渡してくれと言っていたので、お渡ししますね!」
従業員が笑った。
受け取ったのは白くて四角い紙切れの様だった。
ーー何でもいい。とにかく家に、、。
とりあえず俺はそれをポケットにしまった。
※
俺は昨夜、ベロベロに酔っ払っていたらしい。朝、目覚めた時から吐き気が酷い、、。
紛れもなく、これは二日酔いだ。
いつも飲みに行った次の日は、レシートから自分の行動を辿る。
だが、昨日に関しては一枚もレシートが入っていなかった。
どうしてだろう?いつもなら必ずもらってきているのにーー?
上着のポケットには四角い紙切れが入っている。裏側を見ると、名刺の様だ。
最後に飲んでいた店の名前だろうものも書いてある。居酒屋「ノレン」と。
「
普段ならこんなに怪しげにポケットに入っている名刺の連絡先になど電話しないが、昨日の記憶が曖昧過ぎて気持ち悪い。
ケータイを片手に名刺と見比べながら電話をした。
3コール目で、女が応答する。
「はい、もしもし笠原です」
少し早口な様子で受話器の向こうの女が言った。
「もしもし、、えと、、昨夜「ノレン」ってお店で飲んでいた者ですが、、」
「あぁ」
心のない笠原の声が宙を舞う。
「ーー昨日名刺をもらったようで、、」
言葉に詰まっていると、笠原と言う女が突然口を開いた。
「ーーあなた、私の事を覚えてる?」
「いえ、、あの、、すいません」
情けなく戸惑いながら、俺は答える。
「私に絡んだのよ?ーー飲みすぎだって止めてあげただけなのに、、」
「それは、失礼しました」
笠原は声を上げて笑う。
「ーー何、本気で謝ってんのよ。じょーだんよ。じょーだん」
からかわれた事で少しいらっとしたが、そうも言ってられない。先に絡んだのはどうやら俺の方らしい。
「ところで、あなた名前は?」
「ーーあ、すいません。山崎拓海と言います。昨夜はほんとに失礼しました」
酒乱とも言う状態に陥っていたのだろうか?少なくても俺は知らなければならない。昨日の自分の飲み方をーー。
そして考えなければ、、同じ事を繰り返さないように。
「いいわよ!そんなの、、ところで今日時間ある?」
笠原と言う女は言った。
「あぁ、、はい」
どうも歯切れが悪い返事になってしまう。笠原と言う女に言われるがままに、俺は今日6時、近くの公園で待ち合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます