「なんでもない」
@Bornite
「なんでもない」
ある夏の昼下がり。
【大雨】
ほら。やっぱりね。
だって今日は私の誕生日だもん。
大事な場面は全部雨だったな。
小学校、中学校、高校の入学式は全部雨。
クラスマッチとか体育祭は雨で中止。
修学旅行なんか地元は晴れで行った先だけ大雨。雷なんかもあったな。
大好きなおじいちゃんが死んだ時も雨だった。
「はー、毎度毎度雨ですねー。でも、これなら遊べるんだよねー♪」
『オンラインゲーム』
んー、今日はどこからしていこうかなー。
あ、そういえばあの人はログインしてるのかな?
ちょっと検索かけてみよう。
⋯⋯いた!
登録名「sunnyman」
通称「晴れ男」
突如フレンド申請が来た人だ。
一緒にプレイすると攻略も楽な上に、何より楽しい。
ちなみに私の登録名は「rainylady」通称「雨女」だ。
知らない人とゲーム上で会話する時は「チャット機能」を使う。
《お疲れさまです!晴れ男さん、今日一緒にまわりませんか?》
《お疲れ様です!ぜひ!どこから責めましょうか?》
《私の行きたい所でいいですか?じゃあこの前言ってた場所から⋯》
《いいですね!それでは⋯》
なんかこの人いつも私が行きたい場所からプレイしてくれるなぁ。
いい人なんだろうな、晴れ男さん。
ちょっと仲良くなったから聞いてみようかな。
《やっぱり晴れ男なんですか?》
《僕が外に出ると必ず晴れます!》
《えっ、羨ましいです!私重度の雨女です》
《あぁ、やっぱり?登録名がそうですもんね!じゃあもし僕といたら晴れと雨、どっちになるんでしょうね?》
《え?私が勝ちますよ!絶対雨降っちゃいます笑》
《いえいえ、僕が勝ちますよ!絶対晴れちゃいます笑》
《そんな事ないですよ⋯今日も私誕生日なのに大雨なんです》
《へぇー、え?今日誕生日なんですか?おめでとうございます》
《あ、ありがとうございます》
《⋯⋯いま僕が祈ったので、雨女さんの地域これから雨上がりますよ》
《いや、そんな事はないですよ笑》
《まぁまぁ、超晴れ男に期待してて下さい!何か賭けますか?あっ、さっきの所⋯⋯》
《あっ!いいですよ!何か賭けて!っと!これは集中して仕留めましょう!》
三時間後…
《もう夕方ですね!誕生日ですよね?長い間すみません。そろそろ失礼します》
《あ、はい!今日も楽しかったです!有難う御座いました!お疲れ様でした》
《こちらこそ!お疲れ様です》
私ももうやめるか。
ゲーム終わっても結局1人なんだけどな。
両親は遅くなるって連絡きてたし。
雨が酷すぎて外には出たくないし。
そういえばちょっとお腹空いたな。
何かないかと探すと小腹を満たすのに丁度いい、赤いきつね。
控えめに言って最高。
これ小さい頃からいつも棚にあったけど、私大好きなんだよな。
ありがと、お母さん♪
お湯を沸かしながらゲームの攻略法をスマホでチェックする。
シューーーーー!!!!
沸騰したお湯を注ぎ、蓋をする。
この待ってる間の空腹感も堪らなく好きだ。
ペリペリペリ
私は蓋は全部外す派だ。
まずは出汁を啜る。
続いて麺を啜る。
揚げを一口かぶりつく。
美味しい。本当に美味しい。
1週間に1回は食べたい。
誕生日に赤いきつね、本当にいい。
少し汗をかきながら最後の一口、最後の一啜りまで美味しく食べた。
「ご馳走様でしたっ!」
ガチャ
「ただいまー!」
「あれ?お母さん?今日遅くなるんじゃなかったの?」
「うん、残業だったんだけど、雨のせいで交通ストップしそうだからって全員帰宅だったのよ」
「へー、良かったじゃん!」
「あら?あんた誕生日なのに、一人でカップ麺食べたの?」
「いやーお腹空いちゃって」
「何か作ってあげようと思ったのに」
「いやいや、赤いきつねは誕生日のメイン張るくらい美味しいよ」
「まぁ美味しいけど!お母さんもお腹空いてきちゃった。あ、これプレゼント、欲しい?」
「えー!ありがとうお母さん!」
プレゼントは可愛い傘だった。
あまり雨の日は出ないのだが、それなりに嬉しい。
母は棚を漁り始めた。
私はスマホで降水確率を確認してみる。
やはり90%
ほらね。やっぱり。
晴れ男さん、私の勝ちですよー。
ガチャ
「ただいまー!」
「え?お父さんまで?早くない?」
「え?なに、悪い?」
「あなた早かったわね?」
「あ、あぁ、この大雨のせいでお客さん来なくてな!早めに店閉めてきた!ところで、ゆみ誕生日ケーキ買ってきたぞ」
「え?本当?」
「もう食べるか?」
「お父さん達が食べ終わったら一緒に食べよーよ!中々一緒に食べられないじゃん!」
「⋯ゆみ、大きくなったな」
「なーに?急に」
「いや、寂しくなかったか?」
「え⋯別に?」
「そうか…ならいいんだ。先にシャワー浴びてくる」
「はーい。…ねぇお母さん、お父さんなんか変」
「いつも変よあの人」
「ふふ、確かに」
「お父さんね、あんたが小さい頃よく一人にさせて寂しくさせてたの気にしてんのよ。あんたが10歳くらいからよく家にいるようになって、そこから帰宅したか心配で家に電話する度、寂しそうな声してたのよね」
「え?私?そんな寂しそうな声してたかな?」
「らしいわよ。それでお父さんが『何かあったか?大丈夫か?』って毎回聞くんだけど、あんたはいっつも『なんでもない』って答えるんだって」
「⋯⋯」
「多分あんたも仕事だからしょうがないって思ってたんでしょうね。…本当は寂しかった?」
「…別に」
「ほんとに~?」
「ほんとに!なんでもないよ」
「ゆみ、あなたは優しいから何か抱えてたら言いなさいね。…いつも寂しくさせてごめんね」
「⋯⋯何言ってんの。こちらこそ有難う」
「あら、有難うなんて、泣けちゃうわ」
「⋯⋯お母さん台無し!」
私は私の意思で家に居ることが多いだけだ。
虐められてるわけでもない。
ただ、私といる子は大雨になり気分も落ち込んでしまう。
皆には楽しく笑ってて欲しい。
海に行ったり、山に行ったり、キャンプしたり、デートしたり、ドライブしたり
それは晴れてるから楽しい。
だから私の意思で外出しないのだ。
だから…寂しいのは…
しょうがない。
「今日は寂しくさせなくて良かった」ボソッ
「ん?何か言った?お母さん」
「ううん、なんでもないわ。それよりお父さんのケーキ楽しみね」
「後で皆で食べよーね♪」
その日は久し振りに家族で過ごし、学校の事、最近はまってるゲームのこと、お父さんの仕事の事、お母さんの友達の事など、ケーキを食べながら他愛もない話で盛り上がった。
時刻は22時。
シャワーも浴び、あとは寝るだけ。
しかし私は寝ない!
そう夏休みだからね!
少しお肌には悪いけど夜更かしゲームするのだ!
夕方にお別れしたゲーム機を再起動させる。
夏休みの高校生活は夜も活動時間なのだ。
【フレンドからメッセージがあります】
【フレンドからギフトがあります】
誰だろう?
夜に一緒に行動したい人だろうか?
送信者:sunnyman
《お疲れ様です。ハッピーバースデイ!》
贈答者:sunnyman
《sunnymanさんから【夜傘】が贈られました》
う、嬉しい!!
【夜傘】はゲーム中で最高ランクの装備品。
早速返信しておこう!
《晴れ男さん!ギフト有難う御座います!》
《喜んでいただけたら幸いです!そういえば雨、あがりましたか?》
あ、そういえば外の雨音がしない。
外を確認すると水溜りに綺麗な月が映っていた。
《凄いです!本当に晴れちゃいました!》
《言ったじゃないですか。僕の勝ちですね!》
《今までこんなこと無かったんです!嬉しい負けです!》
《あの!》
《?》
《賭けたの覚えてますか?》
そうだ。何か賭けてたんだ。
でも何を賭けたかは話してない。
《覚えてますよ!でも【夜傘】は返しませんよ笑》
《いえ!今度は本当に会って確かめてみませんか?雨女と晴れ男、どっちが勝つのか…会うのが怖かったら大丈夫です!》
!!
これはデートのお誘い?
《いいいですよ!当日は雨でしょうけど笑》
それからチャットでやりとりし、場所と日時が決まった。
晴れ男さんは都内某所に住む男子高校生で、
私が住んでいる場所から電車で1時間程の所に住んでいるらしい。
デートの場所は2人の距離の真ん中にある水族館。
もちろん雨でも大丈夫なようにだ。
デート前日
柄にもなく、てるてる坊主を作った。
ニュースのお天気コーナー
《明日の〇〇市は曇り。降水確率は50%です。外出時は傘を…》
デート当日
雨音で起きる程の大雨。
さすがに笑う。
しかしデート場所は水族館なんだ。関係ない。
お母さんにプレゼントして貰った傘をさし、待ち合わせ場所に行く。
緊張しながらそこに行くと打ち合わせた通りの姿で、雨の中佇む男の子がいた。
とてもゲーマーと思えない目鼻立ちが整い、美少年という名を欲しいままにしている。
「あの…晴れ男さん…?」
「あ!はい!雨女さん?」
「は、初めまして!この前はギフト有難う御座いました!」
「いえいえ!しかしまぁ雨ですねぇ笑」
「ほんとですね!今日は私の勝ち!」
「いいえ!夕方には晴れますから!てるてる坊主も作ったので笑」
「え?わ、私も…」
「?」
「いえ、なんでもないです!」
それから私たちは水族館に赴き、デートを楽しんだ。
ゲームのこと、お互いの本名や家族、友達のこと色んな話をした。
外が雨かどうかなんて気づかない。
屋内でもこんなに楽しいものなんだ。
あっという間に時間は過ぎていた。
館内に閉館のお知らせが流れる。
「水族館楽しかったです!」
「僕もです!有難う御座いました!出ましょうか?」
傘を手に水族館を出る。
私たちの目に飛び込んだもの。
それは綺麗な夕焼け。
「お、雨上がりましたね。今日は引き分けです」
「そうですね。本当に綺麗な夕焼け…」
「本当に…あ!」
「え?」
「ほら、あれ」
指をさす先
そこには大きく美しい虹がかかっていた。
「雨女と晴れ男が一緒だったからですかね?」
「そう…かもしれませんね」
「僕は雨女がいないと虹見れませんでしたよ!だって雨降らないんだから…」
………
あれから5年
私の名前はゆみ
ただし苗字は変わりました。
そして虹を見ることが多くなりました。
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