第13話 この場で言われても困ります

「あの、ローレンス様」


「何だ?何か言いたいことでもあるのなら聞いてやらないこともないぞ」


腕組みしながら私を見ているローレンス王子に言った。


「はい、なら言わせて頂きますがこの場で婚約破棄を言い渡されても困るのですが…」


「何だ?お前はそんなに俺に未練があるのか?」


「え?」


未練?そんな物あるわけない。8年前に一方的に婚約者に選ばれてすぐに婚約破棄宣言をしてくるし、会う度横柄な態度を取ってくる…そんな相手に何故未練などあるだろうか?しかしローレンス王子には私の「え?」は聞こえていなかったようだ。


「いいか、俺はもうお前なんかうんざりなんだ。昔っからお前は生意気だし、可愛げもない。おまけにどこか俺のことを見下している。それが一番気に食わないのだ。婚約破棄するには十分な理由だろう?」


ローレンス王子が私と婚約破棄をしたいという事は今更改めて言われなくても知っている。ただ、何故私に直接言って来るのか理解出来ない。私に言ってもどうしようもないのに…。


「あの、ローレンス様。少し宜しいでしょうか?」


「言い分があるなら聞いてやってもいいぞ。俺は心が広いからな」


「ならば言わせて頂きますが、私とローレンス様の婚約は国王陛下と父が決めたことですよね?私に直接言われても、はい分かりましたと返事が出来る立場にはないのですけれど」


すると何を勘違いしたのかローレンス王子は言う。


「成程、そういう言い訳をして俺との婚約破棄を回避しようとしているのだな」


何故か納得したように頷くローレンス王子。あ…駄目だ。この王子には私の話が通じていないのかも知れない。こんな言い回しでは伝わらないのだろうか?ならば、今ここではっきり伝えなければ。


「いえ、そうではありません。婚約破棄宣言は、別の場所で改めてお願いします」


頭を下げて頼んだ。そもそも人目が就かないような場所で毎回毎回コソコソと隠れるように婚約破棄をローレンス王子は告げてくるから駄目なのだ。どうせなら、大勢の人々の前や、国王陛下…もしくは私の両親の前で婚約破棄宣言をしてくれれば、その場で私達の婚約を無かった事に出来るのに。


「何だって…?」


私の話を耳にしたローレンス王子の目が見開かれる。


「お前…そうやって俺との婚約破棄を引き伸ばしたいのだな?」


え?何言ってるの?この王子様は…。私、そんな事一言も言ってませんけど?あまりの解釈に思わず言葉を失っていると、ローレンス王子はニヤリと口角を上げて言った。


「いいだろう。お前がそこまで懇願するなら婚約破棄宣言は一旦保留にしてやろう。だが…覚えておけよ」


ローレンス王子は私をビシッと指差すと言った。


「お前の態度次第ではいつでも俺は今まで通りお前に婚約破棄を告げるからな!」


その姿に呆れながらも私は言った。


「…分かりました。それでは私からのお願いです。もし、今度仮に私に婚約破棄宣言をされる場合は、公の場で宣言して頂けますか?よろしくお願い致します」


「よし、いいだろう。よ〜く肝に銘じておこう」


ローレンス王子は不敵な笑みを浮かべ、私の側を通り抜けて資料室を出ていく。


そして振り向きざまに言った。


「お前、今度のクリスマスパーティーは参加するのか?」


「ええ、そのつもりです」


「…パートナーはいるのか?」


少しの間を開けて尋ねてきた。


「いいえ、いません。1人で参加するつもりですから」


「そうか!今年もお前にパートナーはいないんだなっ?!」


ローレンス王子は嬉しそうに言う。…私にパートナーがいないのが余程嬉しいのだろう。恐らく王子はナタリーと2人で私をあざ笑いたいのだろう。…本当にいい性格をしている。大体私は一応ローレンス王子の婚約者なのだ。そんな私をわざわざパートナーに選ぶような男性はいるはずはなかった。


「はい、おりません」


「そうかそうか。哀れな女だ。だが…いいか、よく覚えておけ?当日、パーティー会場でナタリーに失礼な事をしたその時は…」


「ええ、いいですよ。その時こそ、私に婚約破棄を告げて下さい」


大勢の見物客のいる前で私に婚約破棄を告げれば…本当に実行せざるをえないだろうから。


「よし、その言葉…忘れるなよ」


「はい、分かりました」


私は笑みを浮かべながら返事をする。私の返事を聞いたローレンス王子は満足げに頷くと資料室を出ていった。


その後姿を見送りながら私は心の中でローレンス王子に語りかけた。


今の言葉…そっくりそのままお返ししましょう―と。



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