第12話 何故こんなひと気のない場所で?

 早足でキョロキョロと辺りを見渡しながら廊下を歩くローレンス王子の後を私は黙ってついて歩いていた。…一体何処へ連れていくというのだろう。人の気配は益々少なくなっていく。そしてローレンス王子は殆ど人の出入りが無い資料室の前でついに足を止めた。そしておもむろにガチャリと扉を開けて中を覗き込む。


「…?」


一体、ローレンス王子は何をしているのだろう?


「よし、ここならいいだろう」


小声で小さく呟く声が聞こえ、次に私の方を振り向くと言った。


「中へ入れ。話がある」


「あ、はい」


言われるまま中へ入る私。


資料室の中は薄暗く、棚には色々な物が乗っている。古くなった黒板や地図帳、年季の入った図鑑等々…どれもがうっすらと埃を被っているし、どことなくカビ臭い部屋だった。


ローレンス王子は窓に近づき、窓枠に腰掛けると言った。


「おい、何故彼女を虐めた」


「彼女…?」


ひょっとするとナタリーの事を言っているのだろうか?だけど私は彼女を虐めてなどいない。思わず首を傾げる。


「とぼけるな!さっきお前たちはよってたかってナタリーを虐めていたじゃないか!可哀想に、あんなに泣かせて…。そんなに気に入らなかったのか?俺がお前ではなく彼女をパートナーに選んだことが。だから嫉妬して虐めたのか?」


「…」


いいえ、ちっともそんな事はありません。むしろこれからもどんどん他の令嬢を誘って下さい。

…などとはとても言い出せず、思わず口を閉ざしてしまった。


「だんまりか…全くお前は昔から本っ当に可愛げのない女だな。兎に角俺は学園生活最後のクリスマスパーティーはナタリーをパートナーにすると決めたのだ。今更文句は言わせないからな。分かったか?話はそれだけだ」


ローレンス王子はまるで勝ち誇ったかのように腕組みすると私を見た。


「え?」


何?たったそれだけの話の為に5分近く歩かせて、こんなカビ臭い部屋につれてきたというのだろうか?しかし、ローレンス王子は私の「え?」を別の意味に解釈したようだった。


「何だ?そんなに不満なのか?俺が最後まで婚約者であるお前をパートナーに選ばなかった事が」


にやりと不敵な笑みを浮かべるローレンス王子を前に流石に私は口が滑ってしまった。


「いえ、ローレンス様がナタリー様をパートナーに選んだことには何の不満もありません。ただ…不満があるとするなら、何故今の話をこんな場所までわざわざ連れてきてするのだろうと思っただけです。話ならあの場で出来ましたよね?」


するとローレンス王子の顔が真っ赤になり、ブルブル体を震わせ始めた。


「おいっ!お前という奴は…!どうして俺がわざわざお前をこんな場所まで連れてきて話をしているのか分かっているのかっ!それはお前に恥をかかせては気の毒かと思ったからひと気のない場所に連れてきてやったのだろう?!そんな事も分からないのかっ?!」


「はぁ…そうですか」


しかし、私から言わせるとあの場でこの話をすれば恥をかくことになったのはむしろローレンス王子の方だったのではないだろうかと思う。何故なら私とローレンス王子が婚約者同士であることは学園全体に知れ渡っているし、婚約者の私ではなく、別の女性と毎年クリスマスパーティーに参加してきた事で王子の評判はあまり良くはなかったからだ。勿論、その事実を彼が知っているかどうかは…不明である。


「な、何だっ!その態度は!本当にお前は生意気な女だ。やっぱりお前とは婚約破棄だっ!」


ローレンス王子は私を指差し、本日1回目の『婚約破棄宣言』を告げてきた―。






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