第11話 え?私は性悪女?

「あら、何よ?どうして笑ってるのかしら?あ…ひょっとすると私が嘘をついていると思って馬鹿にして笑っているんじゃないでしょうね?」


ナタリーは腕組みし、私をジロリと睨みつけてきた。


「ちょっと、言いがかりをつけるのはおやめなさいよ。仮にも彼女は侯爵令嬢であり、ローレンス王子の婚約者なのよ?」


流石に見かねたのか、シーラが口を挟んできた。


「ええ、そうよ。大体貴女の爵位は男爵家でしょう?身の程をわきまえて口を聞いたほうがいいわよ?」


シーラは気が強い為、中々辛辣なことを言う。


「な、何よ…私の爵位が低いからって…ば、馬鹿にするの?!大体貴女は婚約者の癖にローレンス様に嫌われているじゃないの!」


ナタリーは私を指さしてきた。


え?私は何も言っていないのに、いつの間にかシーラが言った台詞がまるで私が言ったかのようにすり替わっている。


「ちょっと!何故そこでミシェルを責めるの?今の言葉は私が言ったのよ?」


シーラはナタリーに声を掛けるが、彼女の耳には入っていないようだった。


「酷いわ…ローレンス様に相手にされなくて、私に嫉妬して爵位の事を持ち出すなんて…ローレンス様に言いつけてやるんだから…!」


「ちょっと!いい加減にしなさいよ!言いがかりも甚だしいわ!」


サブリナが苛立ちの声を上げるも、ナタリーは止まらない。


「酷い…3人がかりで私を虐めるなんて…!」


大きな青い目に涙を浮かべて私を責めるナタリーは傍から見たらまるで私が彼女を虐めているようにも見て取れる。その証拠にこの様子を見ていた周囲の学生たちがざわめき始めた。


「おい。またあの女、やってるぜ」


「本当、嫌な女だわ」


「性格の悪さが顔に出てるよな」


等々…。


嘘…。ひょっとして私、そこまで周囲の人達から嫌われていたの…?知らなかった。自分の世間からの評価がそこまで低かったなんて。


「な、何よ…皆の態度…」


「ええ。逆にこっちが被害者だって言うのに…」


シーラもサブリナも青ざめた顔で周囲を見渡している。


その時―


「おい!何をしているんだ?ナタリー!」


突然聞き慣れた声が学生食堂に響き渡った。声の方を見ると、ローレンス王子が立っていた。


「あ!ローレンス様!」


ナタリーがハンカチを取り出しながら目に当てた。…隙の無い、さりげない動きだった。


「どうした?ナタリー、ひょっとして泣いていたのか?」



ローレンス王子は大股でナタリーに近付くと肩に手を置き、ナタリーの顔を覗き込む。


「い、いいえ…いいんです。私が悪いんです…私がローレンス様のパートナーになっったのですから、ミシェル様が怒るのは当然です」


ナタリーは涙ながらに訴える。

ん…?何だろう?さっきとは言ってることがまるで違うけど…。するとシーラとサブリナが反論した。


「何言ってるのよ!」


「先に言いがかりをつけてきたのは貴女でしょう!」


「…」


私は口を挟まないほうが良いかもしれない。何か言おうものなら余計話がこじれそうな気がする。


すると周囲の学生が益々ざわめいた。


「本当にあの女は悪女だな…」


「ああ、性悪女だな。…ナタリーは」


え?!


その言葉は私のすぐ後ろで聞こえた。慌てて振り向くと、そこには2人の男子学生がいた。そして今の台詞が私に聞こえたことに気づき、慌てて逃げるように去っていく。


ひょっとすると…学生たちは私ではなく、ナタリーの事を言っていたのだろうか?

ちらりとナタリーとローレンス王子を見ると、ローレンス王子はナタリーを慰めている。


「ナタリー。あんな女の事など気にするな。あいつはお前に嫉妬しているだけなんだ。とんでもないヤキモチ女だからな」


聞き捨てならない台詞を言っているが…反論するのはやめにした。サブリナもシーラも呆れ顔で2人を見ている。


そして、ついにローレンス王子は私に言った。


「おい!ミシェル!」


「はい、ローレンス様」


私は椅子から立ち上がった。


「…ここではまずい。顔を貸せ」


顔を貸せだなんて…まるで不良の呼び出しだ。


「え?何処へ行くのですか?!ローレンス様!」


ナタリーは驚いた様子でローレンス様を見るものの、彼は返事をしない。歯向かうと面倒だし…仕方ない。


「はい、分かりました」


頷くと、ローレンス王子は私を睨みつけると言った。


「では行くぞ」


「はい…」


唖然とするナタリーたちをその場に残し、私はローレンス王子に連れられて学生食堂を後にした―








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