第10話 待ち遠しいクリスマスパーティー


「ミシェル。ひょっとしてまた王子から婚約破棄を言い渡されたのかしら?」


レオンハルト様が帰った後、母が尋ねてきた。


「はい、そうです」


紅茶を飲みながら返事をする。


「全く王子にも困ったものだな…いつもいつも一方的に婚約破棄を言い渡すなんて…そんな簡単に破棄なんか出来るはず無いのに…」


父もため息をつく。


「いいんですよ。私は全く気にしていませんから。子供の頃から数え切れないくらい婚約破棄を言い渡されてきたので、何とも思っていません。多分王子様にしてみれば儀式のようなものですよ。気にしなければ良いだけの話ですからね」


私は残りの紅茶を飲み干すと立ち上がった。


「あら?何処へ行くの?」


母が尋ねてきた。


「はい、夕食まで部屋でドレスを縫ってきます」


「そうか…だが、今年もパートナーがいないのに出席するのか?」


「はい、学生最後のクリスマスパーティーですから。別にパートナー同伴と決まってるわけではありませんし。では失礼致します」


私は父と母に挨拶するとドレスを縫うために自室へ向かった。



 そして、その日の夜に私はクリスマスパーティドレスを縫い上げた。


「フフフ…後は飾りをつけるだけね。仕上がりが楽しみだわ」


クリスマスパーティーに一緒に参加してくれるパートナーはいないけれども、私にはこのドレスがある。


「あ〜早くクリスマスパーティーがやってこないかしら〜」



 そしてこの日の夜、私は幸せに包まれながら眠りについた―。




****



 翌日―



昼休み、私は友人のサブリナとシーラの3人で学生食堂で食後のティータイムを楽しんでいた。


「それじゃ今年は2人ともクリスマスパーティーのパートナーが決まったのね?」


カフェオレを飲みながら私はサブリナとシーラを見た。


「ええ…そうなのよ」


「ごめんなさいね。毎年一緒にクリスマスパーティーに参加していたのに」


サブリナもシーラも申し訳なさげに言う。


「いいのよ、気にしないで。別にクリスマスパーティーはパートナーがいなければ参加出来ないわけじゃないもの」


「ええ、そうなのだけど…でももったいないわ。ミシェルはすごく美人だから色々な男性からパートナーの誘いがあっても当然なのに…」


シーラがため息をついた。


「そうよね。なまじ婚約者がローレンス王子様だから、誰もが気を使ってミシェルに声を掛けられないのよね」


サブリナがじっと私を見つめながら言った。


「その方がかえっていいのよ。だってローレンス王子は私のことが嫌いなくせに、他の男性と少し話をしただけで後で呼び出して婚約破棄をつきつけてくるんだから。その度にローレンス様の相手をするのは労力と時間の無駄よ」


「まあ!言い切るわね」


「本当、相手は王子様なのに。でも流石はミシェルね」


「フフフ。そう?でも8年も相手にしているとそう思うのよ」


私は笑いながら答える。


その時―


「失礼します、ミシェル様ですか?」


突然頭上から声をかけられた。


「?」


顔を上げるとそこには金色の巻毛が肩まで届く可愛らしい少女が私を見下ろしていた。

え…?誰だろう?


「あの…貴女は誰かしら?」


私はこの学園の最高学年だから敬語を使わずに尋ねた。


「まぁ。私の事を知らないのかしら?信じられないわっ!」


少女は腕組みした。一方、何故かサブリナとシーラは2人で彼女を見てささやきあっている。


「ええ。ごめんなさい。知らないわ」


すると少女は言った。


「いいわ、特別に教えてあげる。私の名前はナタリー・クララックよ。聞いたことがあるでしょう?」


「ナタリー・クララック…」


駄目だ、やっぱり聞き覚えがない。


「ごめんなさい…やっぱり知らないわ」


素直に謝ると、ナタリーの眉がつり上がった。


「な、何ですってっ?!嘘でしょう?!」


何故、このナタリーという少女はこんなにも怒っているのだろう?それによく見れば周りの学生たちもナタリーを見てヒソヒソ話をしている。


すると、サブリナが遠慮がちに声を駆けてきた。


「あのね…ミシェル。彼女が今年、ローレンス王子のパートナーとしてパーティーに参加するナタリー・クララック男爵令嬢よ」


「え?貴女が…?」


私は目の前のナタリーをじっと見つめた。私は侯爵家で、この学園の中ではローレンス王子の次に爵位が高い。そして彼女は男爵家なので尤も爵位が低い存在。それなのに堂々と私を見下ろし、視線をまっすぐに向けてくる。そんな彼女を見て私は思った。


本当に…何て素晴らしい組み合わせなのだろう。


今年のクリスマスパーティーは私の学園生活最後を飾るのにふさわしい最高のイベントになりそうだ。


その時の事を思うと、自然と笑みが浮かんでしまった―。

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