第9話 第一王子の謝罪

 馬車が屋敷に到着する頃には、星が空に瞬いていた。


「どうも送って頂きありがとうございます」


私はレオン様にお礼を述べた。


「いや、いいよ。丁度ミシェルのご両親に挨拶もしたかったし」


サラリと言うレオン様に驚いた。


「ええっ?!今から両親に会うのですか?いきなりレオン様がご挨拶にいらした事を知れば父も母も卒倒するかも知れませんよ?!」


何しろレオン様はこの国の正当な第一王位継承者なのだから、ローレンス様とは格が違う。


「まぁ、そんな堅苦しく考えないでくれよ。僕はミシェルの両親に謝罪したいだけなのだから」


「謝罪?何故ですか?」


「それはローレンスがミシェルに失礼なことばかりするからさ。さて降りようか」


レオン様はさっさと馬車から降りると私に手を伸ばしてきた。


「…ありがとうございます」


レオン様のエスコートで馬車で馬車から降りた私は扉を開けるとすぐにフットマンが現れた。


「お帰りなさいませ、ミシェル様…あっ!貴方はもしやアルフォード王子様ではありませんかっ!」


フットマンはレオン様を見ると目を見開いた。


「こんばんは、お邪魔するよ」


「は、はい!すぐに旦那様と奥様をお呼びしてまいります!」


フットマンは慌てたようにバタバタと走り去っていった。


「…取り敢えず、レオン様。応接室へ行きませんか?」


フットマンが去り、レオン様に声を掛けた。


「うん、そうだね」


頷くレオン様と一緒に私は応接室へと向かった―。




****


 

 レオン様と応接室でメイドが淹れてくれた紅茶を飲みながら話をしていた。


「そう言えばミシェルは今クリスマスパーティー用のドレスを作っていたね?」


「はい、そうです」


「どうだい?完成しそうかい?」


「ええ、余裕で間に合います。本当に今から自作のドレスでクリスマスパーティーに参加するのが楽しみです」


「そうかい…」


すこしだけレオン様は寂しげに言う。


「どうかしましたか?」


「いや…今年もローレンスがミシェルのパートナーにならなかったのが申し訳なくてね…」


「いいんですよ、どうせ私はローレンス様に嫌われているのですから」


「う〜ん…」


難しそうな顔でレオン様は紅茶を一口飲んだ。


その時―


「どうも大変お待たせ致しました」


「ようこそお越しいただきましわ」


父と母が現れて、さっそくレオン様に挨拶をした。


「こんばんは。お邪魔致します」


レオン様は立ち上がると会釈した。それを見て慌てる両親。


「そ、そんな!レオンハルト様!どうぞお顔を上げて下さい」


「ええ、そうですわ。レオンハルト様に頭を下げて頂くなんてとんでもございませんわ」


「いいえ、本日は弟の無礼を詫たくて訪問させて頂いているのですから、そうおっしゃらないで下さい」


「と言う事は…?」


「今年もまた…ですの?」


父と母が眉をしかめた。


「ええ、またしても今年のクリスマスパーティーにミシェルを選びませんでした。本当に申し訳ありません」


「いえいえ、どうせいつもの事ですから」


「ええ、そうですわ。全くこちらは気にしていませんから。そうよね?ミシェル」


母が私に同意を求めてくる。


「ええ、そうです。仮にローレンス様がパートナーとして一緒に参加した場合、逆に気を使って息が詰まってしまいそうなので、私的にはむしろホッとしているのですから」


尤もこの話はここだけの話。こんな事がローレンス様の耳に入ればまた激怒して婚約破棄宣言をしてくるのだろうから。


「ええ、そうですよ。娘本人がああ申しているのですから、レオンハルト様はお気になさらないで下さい」


父の言葉にようやくレオン様は納得してくれた。


「分かりました。取り敢えずローレンスには注意しておきます。もう少しミシェルを大切にするようにと」


え?ローレンス王子に注意?とんでも無い!そんな事をされればたちまち、とばっちりを受けるのは私である。だから私は慌てて言った。


「いいえレオン様。むしろ私の事を思ってくださるなら、どうか何もローレンス王子には話さないで下さいますか?」


「ええ!そうです!娘の言う通りです!」


「お願い致しますわ!レオンハルト王子様!」


父も母も必死になって懇願し…ようやく納得してくれたレオン様は再び馬車に乗って城へと帰って行った―。




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