第8話 婚約者は言う。『お前をパートナーにする気は無い』と
「ローレンス、お前の婚約者のミシェルを連れてきたよ」
私は今レオン様に連れられて、ローレンス様の部屋に来ていた。
「あ、兄上!な、何故ミシェルを連れてきたのですか!」
椅子に座って本を読んでいたローレンス様はガタンと立ち上がった。
「まぁまぁ、落ち着けよ。ローレンス、2人は婚約者同士なんだからさ。お互い話し合わなくちゃいけないことがあるだろう。だから僕がミシェルを連れてきたんだよ。それじゃ、僕はここで失礼するから、後は2人でじっくり話し合おうといいよ」
レオン様はそれだけ言い残すと、すぐに部屋を出ていってしまった。
バタン
扉が閉じられると、2人きりになる私とローレンス様。彼は私をジロリと見ると再びドサリと椅子に座り、本を開いて続きを読み始めた。
「あの〜」
「何だ?」
ローレンス様は顔も上げずに返事をする。
「…手の傷は手当を受けたのですか?」
「ああ、受けた」
「そうですか?その割には先程私が手当した状態と変わりない様に見えますが?」
「な、何だって!何を根拠にそんな事を言う?!」
バタンと本を閉じるとローレンス様は私を睨みつけた。
「だって、手を縛っているその布地…同じ様に見えますけど?」
「あ!こ、これは…!」
「駄目ですよ、ローレンス様」
「え?何がだ?」
「ちゃんと傷の手当をしてもらってくださいって言ったじゃありませんか。バイキンが入りますよ?」
「グッ…ま、またお前は人を馬鹿にしたような言い方をして…!そ、それよりも何の用で俺の所へ来たんだよ?」
「はい、実はクリスマスパーティーの件ですが…」
「ああ、その件か?言っておくけど俺はお前をパートナーにする気は無いからな?悪いがもう何人か候補が上がっているんだ。是非、俺にパートナーになってもらいたいと申し出ている令嬢達がいるからな。俺はその中から誰か1人を選ぶつもりなんだ。残念だったな。それとも何か文句でもあるか?」
ローレンス王子は腕組みしながら言う。
「いえ、別に文句はありません」
「な、何っ?!無いのかっ!」
「はい。ありません」
どうせ私が文句を言っても聞き入れないし、何か言うとすぐに婚約破棄宣言をしてくるのだから。
「お前というやつは…本当に可愛げが無い女だなっ!普通女って言うのは少々我儘を言うからこそ、そこが可愛く感じると言うのに…!」
あ、また始まった。いつものくだりだ。
「やっぱりお前のような女は我慢ならん!お前とは…」
でた、本日4回目の『婚約破棄宣言』だ。
「コホン」
しかし、ローレンス王子は咳払いすると途中で言葉を切ってしまった。
え?『婚約破棄』を言わないのだろうか?
「あの…ローレンス様…」
「まぁいい…わざわざ会いに来た奴に婚約破棄を告げる程、俺は鬼じゃないからな」
別に私の意思で会いに来たわけではないのだが、余計なことは言わないでおこう。
「では、今回もローレンス様はクリスマスパーティーはパートナーが決まっているということですね」
「ああ、そうだ」
「教えて頂き、ありがとうございました。では私はこれで失礼致します」
「ああ、帰れ帰れ」
ローレンス様はしっしと私を手で追い払う仕草をするので、私は頭を下げると王子の部屋を後にした。
部屋を出ると、そこにレオン様が立っていた。
「レオン様、いらしたのですか?」
「ああ、ミシェルが心配だったからね。それでどうだった?パートナーは?」
「はい、もう今度のパートナーも決まっているようです」
「そうか…本当に仕方のない奴だな」
「いいんですよ。私はローレンス様に嫌われていますから。それじゃ帰りますね」
「悪かったね。屋敷まで送るよ」
「馬車を貸していただければ結構ですよ?」
付き添って貰うのは申し訳ない。
「そうはいかないよ。城へ連れてきたのは僕だからね。それじゃ行こうか?」
「…ありがとうございます」
そしてこの日、私はレオン様に付き添われて帰路についた―。
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