第14話 パートナーの申し入れ

 昼休みが終わるまではまだ時間が余っている。ひょっとするとまだ学生食堂に2人の友人たちが残っているかも知れない。私は学生食堂に戻ることにした―。



「あ!待ってたわよ!ミシェルッ!」


学生食堂の戻ると先程と同じテーブルでいち早く私を見つけたサブリナが手を振ってきた。シーラも笑顔で手を振っている。そしてナタリー・クララックの姿は見えない。恐らくもう何処かへ行ってしまったのだろう。


「ごめんね。突然ローレンス様に呼ばれてしまったから」


席に座りながら2人に言うとシーラが声を掛けてきた。


「でも意外と早く戻ってこれたわね。それでローレンス様の用件は何だったのかしら?」


「ええ…それがよく分からなかったのよ。結局何が言いたかったのか意味不明だったわ。いつもの様に人気のない場所に呼び出されて『婚約破棄宣言』をされただけよ」


テーブルの上のクッキーをつまむと口に入れた。


「相変わらず姑息な方よね。誰もいない場所でまるで隠れるようにミシェルに婚約破棄宣言を毎回毎回飽きもせずに一方的に告げてくるのだから」


サブリナは眉をしかめた。


「ええ、そうよ。本当にローレンス様はミシェルと婚約破棄するつもりがあるのかしら。疑わしいものよね」


シーラが紅茶を飲みながら言う。


「だから私、今回ばかりはローレンス様にハッキリ言ったの。もし、今度仮に私に婚約破棄宣言をされる場合は、公の場で宣言して頂けますか?ってね」


するとそれを聞いたサブリナとシーラが目を見開いた。


「まぁ!ついに、とうとう言ったのね?ミシェルッ!」


「それで?ローレンス様はそのことについて何と答えたのかしら?」


「『よし、いいだろう。よ〜く肝に銘じておこう』と言ったわ」


私はローレンス王子の声色を真似た。


「さすがはローレンス様の真似が上手ね。だてに8年のお付き合いじゃないわね」


シーラがパチパチと手を叩く。


「だけど、ローレンス様は愚かね。自分で自分の首を絞めていることに気付いていないのかしら?」


サブリナがため息を付きながら堂々とローレンス王子を愚か者呼ばわりした。


「そうね。取り敢えず言いたいことは告げたから、私は満足だわ」


私は友人たちに笑みを浮かべた―。




****


 午後8時―


 家族と夕食を食べ終えた私は自室に戻り、クリスマスパーティーで着る青いドレスを縫っていた。このスパンコールをドレスの裾に縫い付ければいよいよドレスは完成だ。


「フフフ…まるで夜空のように素敵なドレス。もうじき完成だわ…」


その時―。


コンコン


「ミシェル様、レオンハルト・アルフォード王子様がいらしてますが」


ノックの音とともにメイドの声が聞こえてきた。


「え?レオン様が?!」


慌てて縫い物の手を止めて扉を開けると、そこにはメイドが立っていた。


「レオン様がいらしていると聞いたけど?」


「はい、レオンハルト様は只今旦那さまと奥様と共に応接室にいらしております」


メイドが頭を下げながら返事をした。


「ありがとう、すぐに行くわ」


そして私はメイドとともに応接室へ向かった―。




****



 応接室へ行くと、そこにはソファに座ったレオン様に父と母が談笑していた。


「ようこそお越しくださいました。レオン様」


部屋に入り、頭を下げるとレオン様が笑みを浮かべて私を見た。


「やぁ、こんばんは。ミシェル。まずは座って話をしないか?」


「はい、では失礼致します」


私が座ると、何故か父と母が立ち上がった。


「では私達はこの辺で失礼致します」


「レオン様、よろしくお願い致しますわ」


「え?お父様?お母様?」


しかし、私の問いかけにも2人は笑みを浮かべるだけで部屋から去っていく。そして応接室には私とレオン様だけが残された。


「さて、ミシェル。実は今夜ここへ来たのは他でもない。ローレンスの事なんだけど」


レオン様が私を見た。


「はい」


「今日ローレンスに今年のクリスマスパーティーのパートナーのことを尋ねたんだよ。すると今年はナタリー・クララックという女性と参加するそうじゃないか」


「ええ、そうです。本日ナタリーさんが私に伝えに来ましたから」


「そうなのかい?聞いた話によると相手の女性は男爵令嬢だそうじゃないか。全く弟と来たら…ミシェルという婚約者がいるのに、よりにもよって男爵家の令嬢をパートナーに選ぶとは…。おまけに今日もミシェルに婚約破棄宣言をしたらしいね」


レオン様が頭を押さえながら言う。


「ええ、そうですね。でも別に何も気にしておりませんから私は大丈夫です。今年のクリスマスパーティーは1人で参加する予定ですから」


するとレオン様が言った。


「いいや、それは駄目だよ、ミシェル。今年は僕が君のパートナーになってあげるよ。弟の代わりにね。今夜はその事を伝えに来たのだよ」


「レオン様、ですがご迷惑をお掛けする訳には…」


そこまで言いかけた私はある考えが浮かんだ。そうだ、その手があった。


「どうしたんだい?ミシェル」


レオン様が不思議そうに尋ねる。


「いいえ、何でもありません。ではレオン様。どうか今年のクリスマスパーティー…一緒に参加して頂けますか?」



そして私は笑みを浮かべた―。





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