第4話 あの少年は王子様

 次の日、私とお父様はお城へと再びやってきた。


「ようこそ、お越しいただきました。国王が執務室でお待ちです。こちらへどうぞ」


私とお父様を迎え入れてくれた黒いスーツを来たおじいさんが頭を下げてきた。


「よろしくお願い致します」


お父様が頭を下げたので、私もお父様にならって頭を下げた。


「よろしくお願い致します」


するとおじいさんが目を細めて私に言った。


「流石はカレッジ侯爵家のお嬢様でいらっしゃいますね。とても利発そうなお嬢様です」


…これは褒めて貰っているのだろうか?


「どうもありがとうございます」


「おお、なんと礼儀正しいお方なのでしょう。うちの第二王子様も貴女のような方だったら…ハッ!い、今のは聞かなかったことにして下さい。では参りましょうか?」


おじいさんはコホンと咳払いすると私とお父様の前に立って、長い廊下を歩き始めた。


真っ赤に敷き詰めた赤いカーペットの上に廊下のガラス窓から太陽が差し込んでまぶしく光って見える。私は歩きながらお父様にそっと小声で尋ねた。


「お父様…王様はどうして私を王子様の婚約者にしたのかしら?」


「さぁ…でもひょっとするとミシェルの母方のお祖母様が王女様だったからかもしれないね。ミシェルには高貴な王家の血が流れているからね」


「そうなのですか?」


確かにそう考えれば納得いく。でも…私はまだ10歳なのに、もう婚約者に選ばれるなんて、何だか実感がわかない。


やがておじいさんは足を止めた。そこはとても大きな扉でノブの持ちては金色にピカピカ光り輝いている。


コンコン


おじいさんが扉をノックすると、カチャリと扉が開かれ、中からお父様位の年齢の男の人が現れた。


「こ、これは…!まさか陛下自らが扉をお開けになるとは思いませんでした!」


おじいさんは慌てて頭を下げた。


「何を言っている?将来息子の妻になる娘を迎えるのだから当然だろう?」


王様は私を見ながらニコニコしている。


…それって…もうこの話は決定済ってことなのだろうか…?




****


 王様に挨拶を済ませた私はお父様に大人だけで大事な話があるからと部屋を出されてしまった。部屋を出ると扉の前には優しそうなメイドのお姉さんが立っていた。


「ミシェル様、陛下からお菓子を用意するように申し使っております。サンルームへご案内しますからこちらへどうぞ」


「え?お菓子?」


「ええ、甘いケーキやクッキーがありますよ?」


「本当ですか?ありがとうございます!」


私は甘いお菓子が大好きだ。


「ええ、こちらへどうぞ」


「はい!」


喜んでメイドさんの後をついて歩いていると、突然前方から声が掛けられた。


「おい!お前!」


あ…あの声は…。


「あ!お、王子様っ!ごきげんよう!」


メイドのお姉さんが頭を下げた。え?王子様?昨日のあの子が?


「そこのメイド!俺はあいつに用があるんだ!どっか行けっ!」


「は、はい!失礼致します!」


メイドさんは逃げるように走り去っていった。え?私のお菓子は?


「ふん。お前…俺に会ったっていうのに挨拶も無しか?」


王子様が私に近づいてきた。その時、王子様の右足に包帯が巻かれていることに気が付いた。


「あ、怪我の具合はどう?」


とっさに尋ねると、王子様は何故か怒り出した。


「おい!お前、俺と同等の口を叩くな!生意気な女め!」


そうだった。相手は王子様だから敬意を払わなくちゃいけなかった。


「申し訳ございませんでした。王子様」


膝を折って挨拶すると王子様が腕組みしながら言った。


「おい、お前…何故お前が俺の婚約者に選ばれたか分かるか?」


「はい、分かります」


だってさっきお父様が話してくれたもの。


「何だって?!分かるのかっ?!なら理由を言ってみろよ」


「はい。それは私のお祖母様が王女様だからですよね?高貴な血の流れが入っているからですよね?」


すると…何故か王子様は顔を真っ赤にさせて、ブルブル震えだした―。


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