第3話 俺と親友

 ポッキーの件で先生に怒られた後、暗い気持ちで机に戻ってきた俺のところへ、上機嫌なさとるが下手くそなバレエを踊りながらやってきた。


「なあ、りん。次の日曜だけど……」

「それなら無理だ。さっきのぞみの荷物持ちになる先約が入った」

「こちとら新作ゲームを一緒にやろうってお誘いだぞ? んなもん無視してこっちだろうが!」

「そんな恐ろしいことできるかよ! 家に乗り込んできてぶん殴られるぞ?!」

「ひぇっ……」


 俺がここまで恐れるのも、過去に一度『熱が出た』と嘘をついて行かなかった時に痛い目を見た事があるからだ。

 希は俺の母さんから万が一の時のためにと合鍵を預かっていて、それを使って家に入ってきた。

 そして楽しくゲームをしている俺と目が合った数秒後には、脇腹にあいつの膝がめり込んでいたのである。

 次は足の爪を1枚ずつ剥がされるかもしれない。希なら冗談では済まないからこそ、男の友情を差し置いてでも荷物持ちになるしかないのだ。


「ていうか、さっき誘ってた3人の中に希ちゃん居なかったよな? どうして来るって分かるんだ?」

「あいつは姑息こそくだからな。人当たりのいい3人に誘わせて自分は後ろから見てるんだ」

「さすがはデーモン希……」

「ちなみに、あの3人に誘われて買い物に行った日、希が居なかったことは一度も無い」

「凛も大変なんだな、ご冥福をお祈りします」

「死にはしねぇよ。……多分」


 多分と言うのも、いつも希に持たされる荷物の量は普通ではないからである。

 いつも腕がちぎれるんじゃないかというくらいまで持たされ、彼女自身は手ぶらですました顔をしている。

 ただ、それでも最初の方は遠慮していたらしく、回数を重ねる毎に増えてきているのだ。

 次こそは荷物に押し潰されて圧死。棺桶の中からこんにちはになるかもしれない。

 そんな恐怖の念に駆られた俺は、形見として空っぽになったシャー芯のケースを暁に渡しておいた。


「ていうか、お前が一緒に来てくれよ」

「無理無理。だって俺、希ちゃん苦手だし」

「得意なやつなんているかよ」

「あれでも昔は可愛かったらしいな?」

「まあ、今よりかはな。大人しくて、俺の後ろに隠れるくらい気が弱かったってのに……」


 どこで間違えたかと聞かれれば、きっと小学校を卒業して中学生になった辺りだ。

 あの頃から希は俺を嫌うようになった。何が良くなかったのかは分からないが、理解しようとも思わないから気にする必要も無い。


「ま、そういうわけだから、ゲームがしたいなら他のやつを誘ってくれ」

「誘いたくても誘えないんだって。黒田はデート、西川は家族旅行、樹々川は積みゲーの処理だとよ……」

「いや、樹々川んち行けや」

「あいつ、ゲームの邪魔すると人が変わるから日曜日は行かない方がいいんだよ」

「……確かにな」


 ゲームのことになった樹々川の恐ろしさは、俺も痛いほどよく知っている。だから、我慢して行けとも言いづらかった。

 それでも、自分がどうにかしてやることも出来ない以上、今回ばかりは見捨てる以外の選択肢はないのである。

 先に希地獄に落ちる俺を見捨てたのは暁、お前だ。恨んでくれるなよ。


「頼むよ、凛。このままじゃ俺、日曜ぼっちだよ!ニチボッチになっちまうよぉ!」

「変な言葉作んな! 何と言われても無理だ!」

「あ、週末のボッチでマツボッチが良かったか?」

「どっちもいらん!」


 泣きながらすがりついてくる暁を無視し、心を鬼にしながら1時間目の授業に必要なものを机から取り出す。

 その直後、授業開始5分前を告げる予鈴が鳴り、彼はしゅんと肩を落としながら自分の席へと帰っていくのだった。


「……ごめんな、暁」

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