第2話 俺と友人たち

 自分で言うのもなんだが、俺はどこぞのラノベ主人公のように窓際の席で外を眺めるタイプではない。

 学園のヒロインへの恋心を秘めていたり、身に覚えのない理由で恐れられていたりもしない。

 今日の通学路だって、パンをくわえた美少女と衝突することも、ギャングの娘の飛び膝蹴りを食らうこともなければ、青狸のお節介に遭うこともなかった。

 そう、俺は決して創作の世界の男子のような特殊な設定はない普通の一般男子高校生なのである。


「リンリン、日曜日って空いてる〜?」

「買い物、行こう……?」

「ダメならいいんですけど、出来ればご一緒に!」


 しかし、モテないわけではない……と信じたい。

 仲のいい女子3名が買い物に誘ってくれているこの状況、着いてきて欲しい理由は荷物持ちのためだけではない、よな?

 あれ、自分を納得させるための自問自答のはずが、余計に不安になってきたぞ。

 それもこれも、きっとのぞみのせいだ。あいつが先日、「凛は私の荷物持ち」なんて言って来たから疑心暗鬼になってるんだな。


「ねえ、リンリンってばー!」

「あ、ごめん。ぼーっとしてた」

「大丈夫? 愛梨あいりちゃんがハグしてあげよっか?」

「そこまでしてくれなくていいよ、平気だから」


 心配そうにこちらを見つめているのは、早乙女さおとめ 愛梨あいり。同じクラスの女子生徒で、希といつも一緒にいるグループの一人だ。

 ピンク色の髪が悪目立ちしがちだが、天真爛漫で優しい心の持ち主だと俺は認識している。

 いつか頭の上にあるクマ耳のような2つのお団子に触れてみたいが、いきなりやると拒まれそうなのでチャンスを待っているところだ。

 ちなみに、さとる情報によると胸は少なくともEカップ以上らしい。いや、視線を吸われたりなんて全くしてないけどな?


「凛くん、疲れてる?」

「ううん、少し考え事をしてただけだよ」

「それなら、安心。買い物、行きたい」

「日曜日なら空いてるから、誘ってくれたわけだし行くよ。ちょうど買いたいものもあったし」

「……嬉しい」


 表情から読み取れる感情はゼロに近いものの、どこか不安や喜びが伝わって来なくもない。

 そんな彼女の名前は本庄ほんじょう しずく。早乙女さんと同じく、クラスメイトで希と仲のいい女の子だ。

 初めは静かすぎてクラスでも浮いていたらしいが、希が声をかけてからは少しずつ話してくれるようになったんだとか。

 俺も出来る限りコミュニケーションを取るようにしていたおかげで、今ではこうして自分から声をかけてくれるまでになった。

 それにしても、いつみてもサラサラの黒髪ボブは見ているだけで撫でたくなる。もしかすると、俺は髪フェチなのかもしれない。


「妹さんの件で落ち込んでいるなら、私を使って元気を出してもらってもいいですよ!」

「気持ちは嬉しいけど、早苗さなえの件はそっとしておいて欲しいかな」

「す、すみません! お節介でしたよね……」

「ううん、小山こやまさんは優しいね。お礼にまた高い高いしてあげようか?」

「あ、ちょ、それは秘密のはずですよっ!」


 俺の言葉に、あわあわしながら口を塞ごうとしてくる彼女は小山こやま 美穂みほ

 クラスメイトで……以下省略。身長は148cmとかなり小さく、本人はそのことを気にしているため、『身長が伸びる』と言う商品にはいつも騙されてしまうんだとか。

 ただ、以前図書室で高い位置にある本を取らせてあげようと持ち上げた際、目線が高くなる感覚にどハマりしてしまったらしい。

 それからは時々こっそりおねだりしてきては、2人だけの秘密と称して高い高いをしてあげているのだ。

 まあ、希も含めた他3人にはとっくにその趣味がバレちゃってたんだけどな。


「リンリンが来てくれるなら助かるよ〜♪」

「相談、出来る」

「男の子の意見は大切ですからね!」


 3人が一体何を買うつもりなのかは分からないものの、少なくとも今回は単なる荷物持ちでは無さそうだ。

 俺は心の中でホッと溜息をついていると、隣の席からニヤニヤとした視線を向けてくる通称『優しいギャル』こと宮野みやのさんと目が合う。


「今日もモテモテだねぇ?」

「あはは……そんなんじゃないですよ」

「謙遜しなくていいって♪ はい、ポッキーあげる」

「あ、ありがとうございます……?」


 謎にポッキーを1本渡された俺が、偶然教室の前を通り掛かった教師に見つかり、少し怒られたことはまた別のお話。

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