第8話【双子の令嬢、フレイア】★

「それじゃあ、お願い通り、お姉さまのお部屋を片付けてくれたのね?」

「ええ。フレイア様のおっしゃる通り、エラ様の部屋の中はそれはもう。訳の分からないもので溢れていました。それに、この前は見逃してしまいましたが、部屋の中に大量のお酒まで! 侯爵家の令嬢が酒に狂ってるなんて知られたら、そりゃあもう!」

「まぁ。お姉さまったら……それで? 片付けたものは?」

「フレイア様のご指示通り、全て廃棄しております。ほとんど燃やしてしまいました。こう言っては何ですが、エラ様も少しはフレイア様のことを見習ったらよいのに。どちらが姉か、これじゃあ分かったもんじゃないですよ」


 私の部屋へ報告しに来たメイドがそんなことを言う。

 内心ほくそ笑みながらも、悲しげな顔を作り応えてやるの。


「そんなことを言ってはいけませんよ。それに生まれた順番など些細なことなのだから」

「これは、失礼しました! それでは私はこれで失礼します」


 メイドが部屋から出ると、作った表情を崩し、私は声を出して笑う。


「ふふ……ふふふ! 馬鹿みたい。訳が分からないもの? それはあなたが無知だからよ。ふふ。ほんと、この家の者たちは馬鹿ばかりで助かるわ」


 私の双子の姉、エラ。

 彼女は私のことを疑いなどしてないでしょうね。

 あなたがこの家で厄介者扱いされているのは、全て私のせいなのに。


「だって。双子なんておかしいじゃない? 私の方がこんなに綺麗で。こんなに愛らしいのに」


 鏡に映った私の姿を見ながら、自分に話しかける。

 たった少しの時間。

 先にお母さまのお腹の中から出てきただけで、姉だなんて。

 しかも、私と同じ顔をしているなんて周りから言われるのは虫唾が走るわ。

 だから分からせてやったの。

 あなたは劣等、だってね。


「ふふ……それにしても。なんだか虐めたくなるのよねぇ。薬作り? 馬鹿みたい。そんなこと高貴な者のすることじゃないのに。ふふ。それとも、自分が貴族に相応しくないって気付いているのかしら?」


 お父様が国王を騙して約束させた期限までもう少し。

 初めて話を聞いた時は、まさか王太子がこんな年になるまで自分の婚約者の一人も選べないような意気地なしだとは思わなかったけれど、結果的には問題ないわ。

 残りの期間に他の女を選ぶだなんて考えられないし、私とエラだったら、私を選ばないなんてありえない。

 もうすぐ王太子妃になるのよ、フレイア。

 そうしたら、最初にすることは決めているの。

 ずっと目障りだったエラを貴族から追放すること。

 だってそうでしょう?

 私の代わりなんてこの世にいらないんですもの。

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双子の侯爵令嬢の見習い執事は王太子 黄舞@9/5新作発売 @koubu

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