第3話
退勤時間丁度。
柴田康明は満面の笑みで喋り出した。
「はい!みなさんおつかれさんやで〜。今日は飲みに行かへん?もちろん予定がある人たちは断ってもろてかまへん!行ける人は挙手してください!で、どや?」
下がった眉にテカテカした顔、そして、ややくたびれたスーツ。小汚いんだか小綺麗なんだか分からない。
「柴田部長。今時はパワハラになりかねないので気をつけてくださいよ」
やれやれと言った感じで柳田正志は手を挙げた。
新入社員たちは、柳田正志が挙手したことに少し驚いた。
一番行かなそうなのに、と。
「あ、俺、行きたいです!」
米田翔太は、まるでお菓子を買ってもらう子供のような眩しい笑顔で挙手した。
その勢いで大崎絵美や島田晴香、仲村真美も続いた。
「あれ?小泉行かねーの?」
新入社員の中で、ただ一人手を挙げ損ねた小泉真理子。
「えっと…あの、私お酒飲めなくて…」
大学時代はお酒を飲めないことが原因で、仲間はずれにされたことがある。
飲めないのに飲まそうとする先輩に困ったことも思い出す。
「かまへんで!飲めなくてもかまへん!一緒にお喋りしたいんよ〜。ちなみに俺もあんまり飲めません!」
フォローしてくれたのだろうか。
本当のことなのか小泉真理子へのフォローなのか分からないが、その笑顔は、ただ純粋に後輩社員たちと交流したい、お喋りしたいというような顔だった。
「んー、私もあんまり飲めないけどさ、行ってみない?」
仲村真美もあまり飲めないらしいが、それは本当のことに聴こえた。
「…行きます!」
小泉真理子は少し間を置いて挙手した。
他の先輩社員たちも行くようだ。
私も混ざりたい。そう思った。
柴田康明はその姿を見ると、嬉しそうな笑顔でさらにニッと笑った。
「よっしゃ!ほないこか〜!あ、申し訳ないんやけど、皆五百円ずつ出してくれへん?奥さんにお小遣い少し減らされてもうて…ええかな?」
こういうのは奢りじゃないんかい。
新入社員たちは、柴田康明の関西弁につられて思わずツッコミを入れそうになった。
先輩社員たちは、迷わず財布から五百円を出し、一箇所に集めた。
今までもこうだったのかなと、新入社員たちも財布から五百円を出した。
「すまんな、みんな!ありがとうやで!」
その関西弁は、やはり少しエセっぽい。
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