四口目 転生⁉
勇者、それは大切な誰かを守る存在である。
どんな逆境にも立ち向かい、この世の理不尽を己の力と愛剣で叩き切る。
あの子の笑った顔を見てみたいと思った時に真っ先に浮かんだのが勇者だった。
俺が死んでしまった以上、もう会う事はできないであろう。ならばせめてもの償いとして、同じように困っている別の誰かを救えるだけの力が欲しい。
『貴方ガ〈勇者〉ヲ選択シタ場合、拠点ハ地球デハ無クナリマスガ宜シイデスカ?』
(……はい、問題ないです)
俺は「貴方が」という言葉が少しだけ引っ掛かったが、まあ粒立てる程の深い意味はないのだろう。
(ちなみに〈勇者〉にはどのようなカタチで転生するのでしょう?)
まさかこの姿と年齢が引き継がれるのだろうか。
『貴方ハ〈勇者〉ノ家系ニ生マレマス』
『生ヲ受ケテカラ十四年後、王宮カラノ
『ソレマデノ期間ハ鍛錬ヲ重ネルナドシテ待機シテイテ下サイ』
(勅令が出されない場合はあるのでしょうか?)
『ソノ年齢ニ達スルマデニ〈勇者〉トシテ
なるほど、不祥事を起こすなということらしい。
『デスガ〈二十八ポイント〉ヲ消費スルコトデ〈勇者〉トシテ生活スル権利ガ保証サレマス』
(セットメニューもあるんですか……)
ギリギリと言うべきか、丁度良かったと捉えるべきか。
まあ何事もポジティブな方が良いに決まっている。
(是非それも一緒にお願いします!)
『要求ハ受諾サレマシタ』
『特典トシテ、固有技能〈絶対防御〉ヲ
『コノスキルハ発動中ニ受ケル身体的・精神的ダメージヲ無効化デキマス』
『発動ノ有無自体ハ能動的ニ切リ替エルコトガ可能デス』
なんて魅力的な能力なんだ。
何もしなくても〈勇者〉としての地位が約束された上に、
(まさに人生イージーモードですね)
それじゃあ来世の目的も決まったことだし、そろそろピリオドを打つとしよう。
だがまあ、ついでと言っちゃあ何だが、来世では無事に卒業できることを祈っておくとしようか。
……え、いったい何を卒業するのかって?
おいおい、野暮なことを聞くもんじゃあない。それに何より、俺が高学歴、高収入、高身長というハイスペックの超絶イケメンに生まれ変わることができたらの話さ。
『オ疲レ様デシタ。良イ来世ヲオ送リ下サイ』
(お世話になりました!)
『〈
『三十秒後、貴方ノ精神体ハ次ノ生ヘト継承サレマス』
そうして来世までのカウントダウンが始まった。
五秒、十秒と、三枝光芭の終焉が近付いてくる。
(……それじゃあおやすみ、今日までの俺よ)
『残リ十秒デス』
『九……八……』
俺は微かな希望を未来に託し、
『ナ、ナ……ロハ、ジュイ、サ……』
突然、〈
(な、何事だ……⁉)
『ダイ……ダダ、第三者ノ、カカカ介入、ヲ、確認、シ……マシ』
(っ……!)
プツン――
まるで強制終了を喰らったかのように〈
何が起きたか分からないまま、ただ得体の知れない
◆◇◆
……。
…………。
………………ん……っ、何が……俺、は……。
暗い。何も見えない。
光を感じる事すらできないが、俺という存在に確かな質量がある事を認識できた。
……そうか、俺、転生したのか。
意識は良好。
五感は未だ失われているみたいだが、魂の定着には成功したようだ。まずは一安心。
そうだ、今後の行動をシミュレーションしてみよう。
五感を取り戻したら、まずは産声を上げようじゃないか。俺の誕生を世界に
次に目を開いて両親の顔を確認。
美男美女だったら新たなる人生の勝利が約束されるであろう。不安と緊張、そしてそれに負けないくらいの期待が入り混じる、まさに親ガチャの瞬間だ。
あー……ドキドキする。
いつになく嬉しいような、何かに誘われるような高揚した気分だった。
そして、その瞬間は前触れもなく訪れる。
――つんっ。
……ん?
何かが身体に触れた。遂に来たのだ、新しい生命の門出である。
俺は鼻と思しき部分から大きく空気を吸って、シミュレーション通りに大きな産声を上げる準備を整えた。
つんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつん……ッ!
なな、な、何事だぁ⁉
予想だにしない某元祖プロゲーマーも顔負けの
……ていうか、もっと優しく丁寧に扱えよ!
それが両親のものであると断定できないが、感じたのは明らかに人為的な刺激だった。先が思いやられますね。
それでも俺側に一向に動く気配がない為か、謎の人物は俺の腹部らしき部位を、ほとんど
詳細は不明であるが、どうやら全身の機能が稼働し始めているのは確かなようで。現にお尻付近にチクチクとした肌触りの悪い何かが当たっているのをはっきりと感じ取ることができた。
「……ボ……イ」
続けて、俺の耳に聞き馴染みのない声が届いた。
しかし「ぼい」とは何のことだろうか?
よく分からないので耳があると思しき場所に全神経を集中させてみる。
「ヘ……ボ……イ」
ズコーッ!
音が聞こえるようになった俺の聴覚が受け取った最初の言葉は、まさかの「へぼい」だった。
いくら相手が夢見るチェリー君だからって、礼を失することはあってはならないと思うのですよ。まして初対面の相手ならば尚更のこと。
平然とこのような酷い言葉を口にするのは、一体どこの誰なのか。親の顔でも何でも良いから、真っ先にその面を拝みたいものだ。
俺が強い不快の念と
「ヘイ、ボーイ!」
「ぬわあっ⁉」
不意に耳元で発せられた大声に呼応するように、驚いた俺は盛大なリアクションを取ってしまう。
「……こ、声が出せるぞおぉぉぉッ、げほ、げほげほッ!」
嬉しさのあまり急に叫んでむせ返ってしまった。
そしてさらに、
「……めめ、目が、目がぁぁぁッ!」
つい某特務機関の大佐のような反応をしてしまった。
すぐ調子に乗りやすい性格であることが、俺の悪い癖だ。
いかんいかん。まずは現状把握が第一である。
気持ちを落ち着かせ、今度は自分の意志でゆっくりと目を開ける。
「ええと、俺は今何処に――」
光を取り戻した瞳に最初に飛び込んできたのは、病室のベッドでも美しい花畑でも山腹を
「つば……さ?」
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