序章Ⅱ
サエグサ商店。
都会でも田舎でもない中途半端な街にある小さな弁当屋であり、何を隠さなくとも俺の実家である。
本来は値段の安さと圧倒的なボリュームを売りにしているはずなのだが、実際はそれ以上に店主である母さんの
しかし、そんな己の需要を知ってか知らでか。当の本人は『用事ある。店は任せた』と淡白なメッセージを送りつけ、挙げ句の果てには多感なお年頃の息子に仕事を押しつけて出掛けて行ってしまった。
ほんと偶然、偶然にも今日は予定が空いていたので、寧ろこの為に空けていたまであるケド? そんなこんなで俺はクリスマスのゴールデンタイムにひとり寂しく店番をする羽目になったのである。
ジューッ、ジュワジュワ、パチパチパチ――。
「……もう一頑張り、だな」
ため息交じりに呟くと、油の中の自分と目が合った。
正直、こんな日にウチのようなしがない街の弁当屋に立ち寄る人間なんぞそう多くはないだろうと高を
「いらっしゃいませ〜」
ここで、本日何人目になるか分からない男性客がご来店。少なくとも週に四回は顔を見せる大常連さんだ。
「こんばんは……ええと、あの、いつものを一つ」
「特唐メガ盛ですね。お時間頂戴するのでお掛けになって少々お待ち下さい」
当店では弁当に限りライスのサイズアップが無料なので、お客様の多くは特盛やメガ盛の唐揚げ弁当を購入してゆく……が、実はその
「……はぁ」
そして何より、キョロキョロと店内を見回した男達は、店にいる人間が若造だけと分かった途端に一人の例外もなく露骨に残念そうな顔をするのだ。これでもいちおう想い人の一人息子なんだがな、まあいつものことさ。
「すみません、折角来て頂いたのに。母さんは少々野暮用でして……」
「なな、何のことだい? わ、私はこの店の唐揚げが大好きなだけだよ?」
「……そうでしたか、いつもありがとうございます」
口に出さずともバレバレだっての。
けどまあ、あの人は身内の
それもあってか、俺も同じ男として彼らの気持ちは理解できるので、本日来店した哀れな男性陣には無料で唐揚げを
「お待たせしました、こちらいつもの醤油唐揚げ弁当です。お気を付けてお持ち帰りください」
「ありがとう……また来るよ、絶対にね」
「お、お待ちしております」
「ではまた!」
清算を終えた独身
「ありがとうございました〜」
と、下心満点なお客様を見送った。
「……なんだかなぁ」
無論この店が
しかし、現実はあまりにも残酷で、時刻は既に十九時を回っていた。
「今頃、世の美男美女はベッドに白い雪でも降らせているのかねぇ……」
なんて、くだらないことを口にしながら店の外に出る。
「……今日は一段と冷えてやがりますわ」
吐き出した息が白い
例えば先端が蛍のように明滅する
天を踊る白粒を
「……」
もう数分この不思議な感覚に
「……ち……きん」
か細い女の子の声。
気が付いて見ると、ひとりの少女が店の前で
処女雪のように真っ白な髪。
短めのスカートから覗く、
「……」
そんな氷姫様は、このいつ
ちなみに葉月は俺の母さんの名前である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます