とりから⁉︎~異世界(ゲーム)の初期化は鶏からスタート⁉︎ 下僕と零化士のRe:Quest〜

无乁迷夢

揚げたてのプロローグ⁉

序章Ⅰ

「ぅう……寒っ!」


 十二月二十四日。愛し合う二人がその想いを確かめ合う特別な日。

 そう――今日はクリスマス・イヴだ。


 最寄りの駅前には巨大なクリスマスツリーが立てられており、七色に輝くイルミネーションが華をえている。誰のめいでそうしているのか知らないが、たかが一イベントのために膨大な資金や人員を投じるというのだから、まったくご苦労なことである。


 とはいえ、それでも確かに一定の集客効果はあるようで、光に引き寄せられる虫のごとく、ツリーの周りには腕を組んだ男女カップルの姿がちらほら眼についた。


「ほら見てごらん、街中が私達を祝福しているよ」

「きゃあ! ヒデさんったらロマンチシストぉ!」

「……あれれ、何だかおかしいな? 今日は雪が降るくらい寒いはずなのに、何故か心も体も温かいんだ」

「うふふっ。ねぇヒデさん、貴方の隣を見てみて?」

「……おっと、ごめんごめん。どんな時も私の隣には太陽のような君がいてくれるんだったね。日々愛情という名の懐炉かいろをありがとう、マイハニー」

「もぅ、使い捨てにはしないでね?」

「勿論さっ!」


 そう言って熱い抱擁ほうようを交わす年齢としの離れた男女。

 男のややしわの目立つ左手の薬指にはシンプルな銀の指輪が光っている一方で、現役で勉学にはげんでいそうな女の指にそれらしきものは見られない。


 その光景は、第三者である俺からすれば極めて滑稽こっけいな様に思えるのだが、いやはや。まったく恐ろしい力を秘めた魔日であることよ。

 

 どれだけ歪んだカタチであっても愛し合う者達が織りなす奇妙な幻想空間は、その場にいるだけで俺のような非リアの感覚までをもことごとく狂わせ、鳴り響く定番のクリスマスソングがまるで披露宴の入場曲かのような錯覚におちいらせる。


 まあこの場合、彼女達の頭には白いヴェールがかっているため、どちらかといえば結婚式のウェディングソングと言った方が適当であるかもしれないが。


「……ほんっと嫌になるわ」


 ぽつりと呟き、俺はひとり歩くペースを速くする。

 ちなみに相手がいない人間には無縁の話であるが、今年は七年ぶりのホワイトクリスマスなんだそうな。


 テレビや雑誌等の各メディアでは連日のように特集が組まれ、まるでそれが全人類の総意であるかのように和気藹々わきあいあいと報道されていた。例年よりも無駄に街中が活気に満ちているのは恐らくそれが原因であろう。いい迷惑だよ、ほんと。


 だがな、ちょっと待ってほしい。この世界の全ては表裏一体、良い事もあれば悪い事もあるものだ。例えばこの〈七〉という日本では謎に人気の高い数字でさえ国によっては縁起が悪いとされており、この数字に関連する事件や事故は結構多いらしい……って、そんな話は誰も求めちゃあいないよな。


 ど、どちらにせよ、クリスマスなんてものは日本由来の文化ではないし、かの有名なネ◯とパ◯ラッシュの命日でもあるワケで。そのような日にみだらな喘ぎ声を上げるのはいかがなものかと思うのですよ、はい。


 ああ、こんな時はぼう呟き系SNSアプリを確認するに限る。それこそ『リア充爆発しろ!』とか『クリぼっちで何が悪い!』などの哀れでみじめな同胞の投稿であふれ返っているに違いない。


『リア充は重罪なり。神の裁きがあらんことを』


 ――送信、送信っと。


 ああよかったよかった、制裁とは無縁の清純な人間に生まることができて。


「……っ」


 おっと、目にゴミでも入ったかな。

 スマホの画面がやけにゆがんで見えた俺は、周囲の人間に気づかれないようにササッと目を擦り、忙しく瞬きをした――その時だ。


 ピロリンッ♪


 聞き慣れたチープな電子音と共に、一件のメッセージがスマホの画面中央にポップアップした。


「……はいよ」

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