冒険者組合:番外編

第89話温泉都市

 森霊種の国の冬はとてつもなく寒い。

 一年を通して年中基本的に寒い国ではあるが、冬季に入るとその寒さは日増しに強さを増していく。

 エラも取り返し無事に旅を続ける事が出来る様になったエルピスは、身体を休ませるために森霊種の国の温泉街に来ていた。


 湯治の場所としても有名なこの地は人間の冒険者や商人も好んで訪れる場所であり、森妖種だらけだった首都に比べて多種多様な種族の者たちが街中を歩き回っている。

 王国祭の時と同じくらい行き交う人の中を縫う様に歩きながら、エルピスはぽつりと言葉を落とす。


「さっむ。アウローラ大丈夫? もしよかったら魔法使うけど」

「お願い。手足の感覚なくなってきちゃった」


 隣にいるアウローラの体を案じてのエルピスの提案に対して、アウローラは即座に首を縦に振るうと甘んじてエルピスの魔法を受け入れる。

 首都からも遠く離れたこの温泉街は雪の精が住む山が近くにあるため一年を通して雪が降り頻る。

 瓦屋根に雪が積もっていくのは写真で見る分には美しいのだろうが、実際その場に居るとそんな光景も気にすることができないほどの寒さで辺りを見る余裕すらもない。


「とりあえずしばらくはここで身を隠してないと。これ以上面倒ごとを起こしたらシャレにならないし」

「アンタその場に居るだけで面倒ごと起こしちゃうもんね?」

「不幸体質ではないはずなんだけど……なんでなんだろ」


 アルへオ家の専属弁護人のような人物が森妖種の国の首都に行ったという話はエルピスも耳にしている。

 すでに女王の手によってエルピスの嫌疑は完全に晴れているが、その後の正式な書類作成に必要な人員らしい。

 エルピスに今できることはその書類作成が終わるまでこの国の中にいることで、だとすればこの温泉街で久しぶりにだらだらとするのも悪くない。


「もはやエルピスの場合、面倒ごとに自分から挑んでいると思うんだけど」

「灰猫もそんな事言って。俺だって出来れば家でゴロゴロしてたかったんだよ、だって外寒いしさ」

「雪も降ってるしね、…ハクチュン! まだ寒いわね」

「温度上げるよ。俺日本に居たころ住んでた地域が積もる程は降ってなかったから、雪自体は好きなんだけどね」


  手を空に向かって掲げてみれば、冷たい雪が手のひらに当たるのを感じる。

 この世界に来てから始めて見る本物の雪はすごく綺麗で、だけれどかつての世界で感じた熱くなるほどの冷たさは体には伝わって来ない。

 もちろん冷たいか暖かいかは分かるが、一定以上の温度になるとエルピスには全て同じに感じられる。

 単純にエルピスの体が、人のものではなくなってしまったからだ。

 寒いと口にしてしまうのも半分は雰囲気を呼んで、もう半分は反射的に口から漏れ出てしまっているに過ぎない。

 昔の感覚を思い出しながら、雪を軽く手で握ったエルピスは面白いことを思いつく。


「後で雪合戦しようか、魔法なしのガチンコ勝負で」

「いいわよ? 私に勝とうなんて百年早いって教えてあげるわ」

「丁度いいしチーム分けして戦ったら? エラも身体鈍ってるでしょ?」

「うん、そうしよっかな。ニルと灰猫も入るでしょ?」

「もちろん、姉さんに負けてらんないからね!」

「僕結構強いからね? 僕の足に雪玉で追いつけるかな?」

「ならフェルは俺のチームね。セラとニルは後でじゃんけんでもしてよ」


 魔法の強化なしとは言えこの世界の雪合戦は雪が数百キロ以上の速度で飛んでくることも少なくない。

 もちろんある程度安全に気を使っての遊びにはなるだろうが、楽しく遊べるのであればそれでいいだろう。

 ざっくりとチーム分けをして宿の近くで出来る環境があるななどとエルピスが考えていると、ふと隣に来ていたニルがエルピスの上着を引っ張る。


 体温調整はどうにでもなると思うのだが寒かったのだろうか、そう考えたエルピスが上着を渡すとニルは嬉しそうな顔を見せてほほ笑む。


「これで僕エルピスのチームね。姉さん悪いけどそういう事だから」

「笑わせてくれるわ、いつから小学生になったの?」

「なんと言おうと先に証を貰ったのは僕の方だよ。それとも姉さん久しぶりにやる?」


 今週入って初だろうか、目の前でバチバチと火花を散らしているニルとセラから少し遠ざかり、エルピスはいつもの様に灰猫と二人で外から眺める。

 触らぬ神に祟りなしだが、女神は触っていなくても触りに来るのでたちが悪い。

 あの二人の場合は存在感を消すとそれを感じ取るので、普段と同じようにしながらエルピスはアウローラの手を引く。


「二十一番通りにある別荘に行くから、後で合流してよ!」

「ちょうどいいです。この機会にどちらが上かはっきりさせましょう」

「良いけど死んでも知らないよ?」


 不穏な気配を漂わせながら去っていく二人の背中を眺めながら、まぁあの二人ならばどちらかが死ぬ様な事などしないだろうと信頼して、エルピスはそのまま送り出す。

 温泉街と言えばエルピスが最も期待を寄せているのはこの地特有の食べ物達、軽くお腹を鳴らしながらエルピス達は食事処を探して進むのだった。


 /


「まさか僕が負けるなんて……」

「お疲れ様、怪我してない様で何よりだよ。セラ相手に生き残れただけですごいと思うよ」


 いまエルピス達がいるのは、アルヘオ家の別荘のうちの一つ。

 温泉街の中腹程にあるこの別荘はかなり和風の建築方法で建てられており、この温泉街の雰囲気によく合っている。

 畳の上で手足を広げて寝そべるニルを団扇で扇ぎながらエルピスがそう言うと、ニルは不服そうだがどこか嬉しそうな声音で言葉を発した。


「弱っていた所で姉さんは姉さんだったって事だったよ」

「魔法でも技能でも発動までに時間がかかり過ぎなのよ。エルピスみたいに力で押し切る相手と戦うのなら、自分がそれより上なら勝てるでしょうけれど」

「それ言われるとねぇ……力押しにはならない様に注意はしているんだけど、ニルとかセラ相手だと荒らさないと勝てる気しないよ」

「それなら私とニル、一日交代で毎日戦う事にする? すぐに強くなれるわよ」


 そう言いながらセラは微笑むが、エルピスからすれば溜まったものではない。

 この二人の強さははっきり言って、今のエルピスからしても少し異常だ。

 確かに権能を上手く扱える様になればまだ勝機はあるのかもしれないが、今のエルピスではニルと戦っていた時の様に時間稼ぎが精一杯だろう。


 この世界に来てからエルピスとしては戦闘訓練をサボったことなど一度もないと言い切れるのだが、彼女達からすればエルピスの行なっている戦闘訓練など児戯に等しい。

 セラと組手をした時の本気の度合いからしてそれが図れる。

 彼女達は死んでもすぐならなんとかなるくらいの考えで基本的に動いているので、本当に殺す気で戦闘訓練もするし、それが実力の差に深く影響するのだろう。


「あんまり気乗りはしないけど……まぁ周りに被害が及ばない範囲内でならありかな」

「一番良いのは特殊能力とか一切使わずに素手での組手だよ、あれすると武器ない時の戦い方が良く分かるから。試しに少しやって見る?」

「ここで? 室内はさすがにちょっと危なくない?」

「大丈夫さ、建物には姉さんが障壁貼ってくれるし。権能も何も使わなければ神の力でも姉さんの障壁は破れないよ」


 武器や魔法を使わないとは言え、室内での戦闘は家具を傷つけてしまう可能性もある。

 そんな中で胸を張って問題ないと言えるのは、それだけニルがセラのことを信頼しているのだろう。


 エルピスも邪神の障壁を使えば何とかなるだろうが、わざわざこの環境に合わせて普通の障壁を貼り続けるのは相当に骨である。

 すぐにでも力押しをしたがるのは悪い癖だと自覚したばかりだが、それでも中々その癖は抜けてくれないらしい。


「俺にはそんな芸当無理だよ、いつになったらセラと肩を並べられるのかな」

「エルピスなら私くらいいつでも越えられるわ」

「俺の周りで強い人みんなそう言うんだけど、超えられた試しがないよ。悪いけどついでに空間拡張もお願いできる?」

「お任せあれ」


 やる気になったニルを相手にするにはエルピスも手を抜くなど出来るはずもなく、軽く準備運動をしながらセラに注文を入れる。

 それに対してセラが了承して直ぐに、畳張りの一部屋がまるで体育館ほどまで広がっていった。

 体育館ほどの広さとは言え本気で戦うとなると少々手狭ではあるが、格闘戦をするだけならばこれでも良いかと思い直しエルピスはニルの方をじっくりと見つめる。


(うっ…なんかやりづら)


 改めて見て思うが、迷宮で出会った際にニルが言っていた言葉の通り、自分の好みそのままの女性が目の前に立っていると言うのはエルピスとしては少々違和感が拭えない。

 肩の辺りで整えられた黒髪に日本人らしい童顔、ほんのりと赤い唇に強いつり目は気の強さが表に出てきている様だ。

 150かそこらの身長からエルピスを見る目は、必然的に上目遣いになる。

 もう少し身長があっても良い気はするが、セラ同様にニルもエルピスの力が解放されないと成長が進まない性質なのだろう。


 着用している服はどこから持ち出したのか真っ黒なパーカーで、下は少しだぼっとしたズボン、足首には青黒緑で作られたミサンガが括り付けられており、笑った時に見える犬歯は人懐っこさを感じさせる。


「どうかしたエルピス? 僕のことじっくり見つめて」

「あまり見ない方がいいわよエルピス、狂愛のニルは見た者が愛してしまう姿になるから。下手にじっと見ていると恋するわよ?」

「あーそう言うことね! もっと見ていいよ! ポーズ取ろうか?」

「見なくてももう好きだよ、さっさとやろう」


 冗談めかしてそう言うニルを見ながら、確かにこれを長時間見つめ続けるのは精神衛生上良くなさそうだとエルピスは頭を振って意識を切り替える。

 いまからニルとは模擬戦とは言え殺し合いをするのだ、生暖かい考えでは足元をすくわれる可能性が高い。

 この世界に来て初めて全ての技能の効果を無効化し、エルピスはいつもの視界と全く変わった視界で自らの体を確かめる。

 手を軽く握ってみればいつもより少しだけ遅い様に感じられ、足を踏みしめてみればどこか重たい。


 軽く拳を前に突き出してみればその力に引っ張られる様にして体の軸がずれていき、なるほどこれが普段技能で補正されている自分の動き方なのかと認識する。


「あはは、なんか照れるね。一本取るか先に参ったって言わせた方の勝ちね。

 せっかく勝負するんだしなんか賭けようよ」

「照れないでよ、俺も照れる。別に良いけど俺が勝ったらニルはそうだな……今度の定期報告を王国までしに行ってもらおうかな。ニルは俺になにをしてほしい?」


 間違いなく次の報告はグロリアスから怒られるので、エルピスとしては王国に行きたくない。


「地味に遠いんだよここから……。じゃあ僕はそうだな…勝ったら明日一日僕とデートね」

「よし乗った、審判任せたぞセラ」


 勝負事をするのなら賭けをするのが一番やる気が出る。

 歩幅にして十歩分程離れお互いに対峙すると、エルピスはセラに対して試合開始の合図を求めて拳を前に出す。


 二人の力量から考えればこの範囲はもう既に殺傷圏内なのでもっと離れるのが得策なのだが、武器もなし魔法もなし技能もなしのこの状況では近接戦しかできる事がない。


 母から教えてもらった基本的な敵との対峙方法を思い出しながら、エルピスは右手を前に左手は右手をサポートできる様に少し下げて構えを取る。

 それに対してニルは手をふらふらさせながら、笑顔でエルピスの方を見ているだけだ。


「それでは試合開始ッ!」


 セラの試合開始の合図と共にエルピス達の足元の畳が爆ぜ、お互いの距離は0になる。

 先に手を出したのはエルピス、近寄ってきたニルに対して右手で軽く殴りかかる。


 それを予測していた様に反射神経だけでニルがそれを避けると、ニルはエルピスの視界から消えたと錯覚してしまうほどの速度でしゃがみ、エルピスの足を払う。


(何がッ!?)


 普段〈神域〉の効果で周辺を見渡しているエルピスでは到底理解不能な一撃が叩き込まれ、頭の中が一瞬真っ白になる。

 だがそこからなんとか意識を取り戻し、超高速で回転する自分の視界の中に蹴りを入れようとしてきているニルの姿を見つけ、エルピスはその足をなんとか受け止める。


「──痛ッ!?」


 だがギリギリ間に合わず、いつもならば障壁が守ってくれている腹筋をニルの蹴りが容赦なく貫き、言いようのない痛みがエルピスの体を襲う。

 吐き気と血の味が口内を襲い、膝をつきたくなる感情を無理やり押さえつけエルピスは掴んだ足を両手で捻り、寝技に持ち込もうと身体を地面に倒す。

 だがそれを予想していたかの様にニルはエルピスが捻った方向と同じ方向に体を回転させると、その勢いのままもう片方の足でエルピスの首めがけ蹴りを放った。


 視界の端から迫ってくる足を見て間に合わないことを察したエルピスはそれに対して肘を突き出すと、怪我覚悟でその肘を思いっきりニルの足に当てる。


「痛つつ……折れちゃったかなこれは。女の子に容赦ないね?」

「俺のこの手見てもそれ言える? 手首から骨見えてるけどこれ一般人なら重症だからね?」


 神人の自分にも骨が有ったのかと思いつつそう言ったエルピスに対して、ニルは確かにと言いながら自分の足についたエルピスの血を見て嬉しそうな笑みを浮かべる。

 さすがに人前でしかも戦闘中なので舐めとるような動作は取っていないが、その目は戦闘中でなければ今すぐにでも舐めてもおかしくない程に飢えている様に見えた。

 今更になって厄介な子を仲間に迎え入れてしまったかもしれないと自虐気味に笑いながら、エルピスは使い物にならなくなった右手をかばう様にして左手を前に出す。


 利き手ではないので勿論反応速度は下がってしまうが、ないよりはマシだろう。


 それにニルは今の攻撃で足を潰されている、両手がまだあるのは脅威だが片方の足を潰せたのはエルピスからすればかなり大きな収穫だ。


「技有り、と言ったところですかね。次にどちらかに重傷と思われる怪我を負わせた方の勝利とします」


 セラのそんな声を聞きながら、エルピスはとりあえずその場から離れるために全力で後ろに飛ぶ。

 すぐにニルも追ってこようとするが怪我でうまく加速できず、エルピスとニルの間にはかなりの距離が開いた。


 ここでニルにも技能系統使用不可の弊害が出てきたことに少し嬉しさを感じながら、エルピスは頭の中で作戦を組み立てようとする。

 だがそんな時間は与えないとばかりに再び畳を吹き飛ばしながらニルがエルピスの元へと接近し、左手でエルピスの頬に向かって拳を飛ばしてきた。

 それに対してエルピスは特に抵抗といった抵抗もせず、折れた右腕をニルの手と自分の頬の間にクッションとして入れそのまま吹き飛ばされる。


「あれ? なんか良いのはいっちゃった?」


 ニルが疑問に思ったのも無理はない。

 今のはガードしていたとはいえ顎の骨は確実に砕けた、重傷とはいえないかも知れないが、戦闘行動に支障が出るのは予想に難くない。

 そんな事をエルピスがニルにさせるだろうかと思い、飛んで行ったエルピスの方を見て合点がいく。

 エルピスの手にはニルが先程まで足首につけていたミサンガが握られており、そのミサンガは真ん中の辺りで無残にも引きちぎれている。


 ニルが殴り飛ばす瞬間にエルピスはニルの足首にあったミサンガを掴み、何かを仕掛けようとしてきていたのだろう。

 だがミサンガは本当にただの糸で作った安物の品なので、簡単に壊れてしまったのだ。

 手の中にあるミサンガを見て申し訳なさそうな顔をしているエルピスを見て少し楽しくなりながらも、ニルは警戒心を強め次のエルピスの一手を警戒する。


「次でラスト…って雰囲気だね」

「分かってるなら嬉しいな、一瞬でけりをつけよう。顎も痛いし」


 近づく時は最初と同じ様に単純に、エルピスはフェイントすら入れずに真っ直ぐ相手の方へと向かって突き進む。

 臆した方が負け、読みに勝った方が勝負の勝者となる。

 一瞬の油断が文字通り命取りになり、必要など無いはずなのに心拍数が跳ね上がるのが感じられた。

 ここまで殴打や蹴りでエルピスにダメージを与え続けてきたニルは、だが最後の最後にエルピスの襟を掴みそのまま真下へと引っ張ると同時に折れていない方の膝を出来る限りの力でエルピスの顎めがけて振り上げる。


 だがそれを予測していたかの様に、エルピスは掴まれた襟を気にせずニルの首元に歯を突き立て──


「──試合終了! 結果は相打ちといったところね。

 二人とも回復するから動かない様に」


 あと一撃、どちらかが一瞬でも早ければ、どちらかの命を確実に刈り取れただろう一撃をセラはギリギリのところで止める。

 どこまでいってもいまエルピス達が行っているのはたかだか模擬戦、命までかけて行うものでは無いのだ。


「あー痛って、足もそうだけど襟掴まれた時に首の筋肉がガクってなった」

「まぁまぁこっちも噛まれそうになって危なかったんだから、お互い様って事で。

 なんならもうちょっと噛んどく?」


 首筋を見せるようにして妖艶な笑みを浮かべるニルの姿は、エルピスをしてもちょっとなんだかなぁという感じである。


「お互い様っていうなら歯型見て恍惚とした表情を浮かべるな、セラ回復魔法であれ消してやってくれ」

「ちょ姉さんやめてよ消すの!」

「ダメよ、良いの? エルピスが消して欲しいって言ったのよ?」

「それを引き合いに出すのは良くなくない!?」

「そう? まぁそれはそれとして、さすがに噛み跡を残そうとするのはエルピスでもドン引きみたいよ?」

「まさかそんな…うわっ、今までに見たことないくらい微妙な顔してる。おっかしいなぁ?」

「神としての側面が薄くなってるからよ。ようはあなた個人の性癖ねそれ」


 自分がする行動は全てがエルピスの好みの行動である、そう思い込んでいたニルはセラの言葉に驚きを隠せない。

 別に他人の性癖にどうこう言えるほどエルピスは人として成熟していないし、というか他人の性癖に口出しできる権利がある人間などこの世に一人たりとも存在するとは思えないが、そんな事は別にしてうわぁ…とは思うしさすがに口に出さないまでも引きはする。


 確かにニルがそうしているのは似合っているし、なんとなくイメージ通りだが、エルピス的にはそれが良いとは正直言いづらい。


「僕の性癖歪み過ぎじゃない……?」

「それはそうとして、あの子達はどこに行ったの? 私達がここに来た時にはもういなかったけど」

「ええっとアウローラとエラは温泉かな、ここから結構近い。灰猫はそこら辺ぶらぶらしてるんじゃないかな?」

「それだったらエルピス。義父様の作られた温泉が有ると街で聞いたんだけど、そこに行かない?」


 そう言えばエラにそんなものがあるといつか教えてもらった様な気がする。

 山の上に両親が一から手作業で作った温泉で、秘境とも言って良い様な場所にある温泉らしい。


 大方フィトゥス辺りも関与しているだろうが、温泉を勘だけで掘り当てられる両親の異常性にもう少し他の人間も気づくべきじゃないだろうか。

 そんな事を思いながらも、目をキラキラと輝かせて居るセラに答える。


「──そうだな、行ってみよっか」


 森霊種達が作った温泉宿にも行ってみたいところではあるが、それは帰りでも別に構わないだろう。

 こうしてエルピスは両親が作った温泉に入る為に山奥へと向かっていくのだった。

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