第32話魔力量

「ーーなんでなの」


 アウローラと王族の専属教師として王城で働き始めて早一ヶ月。

 どれだけやっても慣れないと思われた教師生活にもようやく一段落がつき、王城に住むことにも慣れてきた今日この頃。

 才能の塊といっても良い程に上達速度の早い王族達は、もう既に得意属性を超級まで覚えたので、後教えるのは応用のみとなっていた。


 だが王族たちとは違い、アウローラが目指しているのは超級では無く戦術級の魔法。

 魔神の称号も使用して様々な方法を使い魔法発動をサポートし、なんとか出来ないかとこの一ヶ月頑張ってみたのだが、どうしても乗り越えられない壁がアウローラの前に立ちはだかった。

 それは魔力量。


 レベルを上げるだけで魔力量も上がれば良いのだが、この世界におけるレベルとはただ単純にこれまでの戦闘回数の目安なので、魔力量どころか力すら強くもならない。

 生まれつき魔力が増える特殊な人物だったり亜人だったりすればまだ成長の見込みもあるが、増えない人間は例え何をしても大幅には増えない。


 その事を知識として知っているアウローラは、イライラした様子で声を荒げる。


「あぁーもうっ!! 何でこんなに魔力が増えないの!? エルピス! なんかコツは無いの!?」


 声を荒げながらエルピスに対してそういうアウローラには、普段ほどの余裕が見受けられない。

 今までは思ったように使用できていたので、急に難易度が上がったこともあいまって、かなりストレスが溜まっているのだろう。


「そうは言われましても…私の場合は魔力量も勝手に増えましたので、特に何も言える事は無いです」


「これだからチート持ちは……あぁもうイライラする!」


 当て付けにも近い理由で怒られ、身体をポコポコ叩いてくるアウローラの対応に困ったエルピスは、目でアルに助けを求める。

 フィトゥスとリリィは基礎の段階で人類種基準で話ができず授業にならないので置いてきたし、マギアは戦術級魔法の消費魔力減少用道具を作る為に、王国内を飛び回って居るのでこの場には居ない。


 周囲の魔力を吸収し、魔法の放出にかかる魔力量を減らすと言う道具らしいのだが、正直な話そう言った類の物はアウローラに余り使って欲しく無いので、おそらく鍛治神と魔神を使えばマギアが作ろうとしているものより強力な道具も作れるが黙っている。

 まぁ最悪作っても良いとは思うが……戦闘で壊れる可能性の物に頼るのはあまり好ましくない。


 何とかなだめようとしていろとアルがアウローラの肩を軽くたたきながらやさしく声をかける。


「落ち着け。余り焦っても魔力量は増えないぞ」


「アルは魔法使え無いんだから、黙ってて!」


「ーーなっ! 俺はただ慰めようとしただけなのに」


 なだめようとして近づき、強烈な言葉によるカウンターを貰ったアルキゴスは深刻なダメージを受けたのか、隅っこでいじけてしまった。

 良い歳してる癖にガラスのハートしやがって。

 いったい何しに来たんだ。


 そんな事を思いながら収納庫ストレージにある物を物色しつつ何か便利なものはないかと探していると、どこからともなくセラがやってきた。


「私が魔力量を簡単に増やせる方法、教えましょうか?」


「うわっ! ビックリした。ーーというかそんなのあるの? さすがセラ冴えてる!! 教えてよ!」


「えぇ構いませんよ。ですがその方法が通用するか調べたいので、手を出してもらえますか?」


「いいよー、と言うかなんかセラって鑑定の時に手を握るけどなんでなの?」


「鑑定の仕方がみなさんとは違うので。エルピス様みたいな完璧な鑑定なら良いんですが」


 気配を消しながらエルピスの隣に姿を現したのは、私服に身を包んだセラとエラだ。

 先程まで街に出ていたのか手には買い物袋が握られている。

 アウローラは不意に現れたセラに驚いたようだが、魔法を更に使える様になるかも知れないと言う期待に胸を膨らませ、目を輝かせながらセラの近くへ寄る。


 アウローラから了承を得たセラは、そのままアウローラの方まで歩いて行き鑑定を始めた。

 どうやらセラの言ったとおり普通の鑑定とは何処か違う様で、魔神の称号が魔法系統の発動を感知していた。


「エラ。手、出して」


「ーーっ!」


「ほら、早く」


 鑑定を待っている間に、少し遠くで待機していたセラの方まで歩いて行き、エルピスはエラにゆっくりと右手を差し出す。

 朝起こしに来る時もセラと喋っている時も、この一ヶ月間ずっと手を繋ぎたそうにしていたから、今が時間的にもタイミング的にも丁度良い。

 それにこれ以上不機嫌にさせたら、どうなるかわかったもんじゃない。


 そんな言い訳を自分に吐きながら、エラの手を自意識過剰な自分の言葉で赤く染まったままの手で、軽く包み込む。


「ーー痛っ!? 痛い痛い! ギブギブ!!」


「一ヶ月ですよ。私がこの一ヶ月間どれだけ…どれだけ嫉妬して居たか分かりますか? 分かりませんよね?」


「いや悪かったって。別に俺とセラが仲良くしてても気にしないかと思ってさ」


「……………エルピス様は馬鹿ですね」


「えっ? 何か言ったーー」


 繋いだ手の感触すら伝わらぬ内に、エルピスはまるで何年も会って居なかった愛しい人にでも会った如くエラに抱き締められる。

 口では怒って居るが、抱き締め様とした瞬間にエラの顔が凄く赤かったのを見てしまったエルピスは、心の底から可愛らしく思い、されるがままに抱きしめられる。


 とは言えそれは恋愛感情では無く、強いて言うなら友達の妹に懐かれた時の様なそんな感情だ。

 ここは黙って抱き締め返すのが良い男という物だと、頭の中で語るお父さんの言う通りにゆっくりと抱きしめ返す。

 別にエラの身体が柔らかくて良い匂いがするから、抱きしめたかったとかでは決してない。……いやちょっとだけはあるけれど。


 それから少し経って、エラの方から離れた。

 その事に少し残念な気持ちを抱きながら、エルピスは話を仕事に戻す。


「なんかやけに鑑定の時間が長いけど、なんでだろ?」


「……ここまでしても、なびくどころか気付きもしませんか」


「な、何に?」


「いえ別に、どうしてでしょうね」


 理由は分かるがそれは近くに異性がいないからだ、また怒り出したエラを宥めながらエルピスは鑑定時間が長いのがどうしてだろうと考える。

 もう既に鑑定を始めてから一分近く経っている。

 どれだけ長くても普通二十秒位なので、何か鑑定以外にもしているのだろうか?


 エルピスより数多くの文献を読み漁り、父と母から直接指導されたエラなら分かるかと思っての質問だったのだが、その質問に対してエラは答える。


「私には分かりませんが、エルピス様も分から無いとなると、鑑定ではわから無い事を調べているのでは無いでしょうか? 召喚した天使などは、種類によってはその様な能力を使う事が出来ると聞いた事があります」


 どうやらエラの知識をもってしても、詳しくは分からないようだ。

 鑑定ではわからない事か……そこら辺の検証も今後していかないとな。

 そもそもしっかりとスキルを使えているのか、微妙な所でもあるし。


 無知という物の怖さはフィトゥスやお父さんと実戦を交わした事で身に染みたし、それらもスキル〈完全鑑定〉の能力で分かるなら僥倖だ。

 そんな事を考えていると、セラがこちらに歩いてくる。

 どうやら鑑定が終ったらしい。


「言っていた方法も出来る様で良かったです。それにしても凄いですね、アウローラ様は増加速度すら余り早くないですが、上限値は国級すら扱える程ですよ? 爆破魔法とか良いんじゃ無いですか?」


 アウローラの近くにいたセラがこちらに来たかと思うと、一切の動作なしに抱き着き、鑑定結果について事細かく報告してくれた。

 おそらく先程のエラに対抗心があってやったんだろうが、抱き締めてくる力が強過ぎて、ちょっとやばい。

 いまのエルピスの力でも解けないということは、一般人なら腕の中でミンチになっていることだろう。


 それにしても国級まで扱えるかもしれない魔力量か……。

 さすがに父レベルの魔力量では無いと思うが、大器晩成型なのはアウローラらしいなと思う。


「それに彼女の血統能力とも相性良いですしね」


「血統能力が有るの?!」


 血統能力とは特別な血統、もしくはそれに類するものに、ごく稀に現れる生まれつきの能力。

 要は先祖返りの様な物だ。

 性質は悪質な上に能力としてはスキルや魔法に分類されず、特殊技能ユニークスキルと同等かそれ以上の力を持っている。

 特殊技能ユニークスキルの獲得には天性の才を持ってしても二十年はかかると言われれば、生まれついての能力でそれより強い可能性のある血統能力の異質さがよく理解出来るだろう。


 なんでもセラに聞いた話だと この血統能力と先祖返りは、異世界人が好き勝手した際に止められる抑止力として創り出されたものと信じられているらしい。

 大体何かしら先祖と同じ能力になる先祖返りと違い、血統能力はその使用者の行いたい事や意思と反対の能力になる事が多く、この能力のせいで人生が狂った人も少なくはないとエラに渡された文献に記載されていた。


 それにしても特殊能力か……これは面倒な事になったな。

 というかいままで気づかなかったという事は、本人さえ自覚して無い系統の特殊能力なのだろうか?


「彼女の血統能力は、彼女の攻撃で負傷した場合、回復魔法不可の呪いがかかるという能力ですね」


 つまりアウローラが広範囲魔法の一つでも撃とう物なら、完璧に防ぎ切らない限り、それだけで相手は戦闘続行が厳しくなるという事である。

 早く力の使い方を覚えさせないと。

 両親に自らの力の扱いを心配されていたエルピスではあるが、他人の能力であるならばそれがどれほど危険なものなのか分かる。


「それは…なんとも言えない能力だな。そう言えばセラ、アウローラ様の魔力量はどうすれば増やせるんだ?」


「アウローラ様が限界まで魔法を使い、誰かがアウローラ様の限界値を超える魔力を渡せばその分増えるはずです」


「本当に!? やったぁ!」


「ーー本当に増えるのか? そんなに都合のいい事…」


「まぁ魔力が急激に増えた分だけ、頭が痛くなったり吐き気がしたり三日四日寝込んだりしますけど、得られる力に比べれば誤差ですよ」


 美味い話には裏があるというが、まぁ急激に魔力の量を増やすなら多少は仕方がないだろう。

 明日あたりに伝えておいた方が良いだろうが。


「やったやった! やったぁぁ!!」


 よほど嬉しかったのか、アウローラはまるでおもちゃを買ってもらった子供の様にぴょんぴょん飛び跳ねている。

 これは明日も荒れそうだなぁ。

 ……それにしても魔法以外の修行を一切してないが、アウローラ含め王族の人達もそれ以外は大丈夫なのだろうか?

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