第21話 指がちょっと切れたくらいでさわぐんじゃねえ

 剣道道場に所属する剣士たちは、本当によくホームパーティーをしていました。国民性かもしれませんが。


 定期的に誰かの家に集まり、「ポットラック」と呼ばれる各人で食事を持ち込むスタイルのパーティーが一般的でした。(このご時世では、しばらくポットラックパーティーは難しそうですね……)


 とある日のこと。日系企業に勤めるトムの家で「レッドクリフ」を観よう、という話になり、土曜の夜にトムの家に行くことに。彼の家には、80インチクラスのテレビがあったんですねえ。ほんとお金持ちの多い道場ですね。


 今回は、料理の大半をトムが用意してくれたので、みんなで食事の準備をお手伝い。エイミーと私はパンを切る担当でした。


 するとうっかり、エイミーがざっくり指をパン切りナイフで切ってしまったのです!

 といっても、ちょっと切ったくらいだけど。


 しかし、卒倒しそうな勢いでベットに横になり「やばい……!指なくなるかも……!」と大騒ぎをするエイミー。なお、外科医(ベン)がその場にいたので、すぐ診てもらえましたが。やはり大した傷ではありませんでした。(毎度オーバーな奴め)


 すると「指がちょっと切れたくらいでさわぐんじゃねえ」と、エイミーをいじるジャッキー(自営業のおじちゃん)。エイミーは、ジャッキーのとこでバイトをしているので、この二人はとても仲がいいのです。


「俺なんか、釣り船に乗ってたときによ、ワイヤーが腕に巻き付いちまって、うっかり腕が半分ちぎれたんだぜ! うわははははは!」


 いや、おっちゃん。笑えないっす。その実話、笑えない。

 でも気になって、「え、それ、どうしたんですか」と聞いてみる。


「そのときはな、釣り針とテグスを使って、自分で縫ったんだよ。あれはびっくりしたなあ、コレがその時のキズよ」


 確かに、彼の腕には、しっかりと縫ったキズが。

 なお、彼の商売は刀剣商。日本刀を売りさばく商売をされておりました(今もやっているかは知らないけど)。カタギの人間だったのかは、今も謎に包まれています。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る