第9話 黒い熊(猫)とミツバチ

 A大の剣道部、という表現だと誤解がありそうなので、A道場(A大でやってる道場だから)と呼ぶことにします。


 日本の剣道道場とかだと、子どもが多い印象なのですが。A道場の剣士たちはだいたい20代〜70代。女性は少なく、ほとんどが男性でした。


 段持ちは少なく、三段以上は「先生」と呼ぶ決まり。

 師範を勤める加藤先生は、五段とかそんな感じだった気がします。


 そんな中、日本での剣道経験者は確か三•四名。女性は私を含めて二名が段持ち。

(この辺、だいぶうろ覚えなので違うかもしれない……)


 稽古を始めてみて思ったのは、もちろん道場によるのかもしれませんが、結構形というか、剣道の戦い方という意味では荒削りな感じ。やっぱり、本場日本の道場と比べると、基礎鍛錬のレベルがすこし落ちるのかな、というのが正直な感想でした。


 ただ、もちろん、形がとってもきれいな人はいたし、強い人もいました。


 あとは、みんな一生懸命やっていて、純粋に剣道を楽しんでいる様子に好感が持てました。日本の道場で剣道やるより、和気あいあいとしていて、よっぽど楽しかった記憶があります。


 が、一つだけ、とっても大変なことがあったのです。


 それが、私の天敵、Black Bearボブ との稽古。

 見た目が格闘家のボブ・○ップに似ていたので、仮にボブとしておきましょう。

 彼は初段で、上段(常に竹刀を振り上げた状態で戦う構え)の剣士でした。


「日本から来て、しかも二段だって? お手合わせをお願いするよ」


 少々興奮気味でこちらにやってきたボブ。基礎練習が終わった後、稽古を申し込まれました。彼は初段ということで、段持ちの日本人との対戦が、とても楽しみだったようなのです。


 だがしかし。ボブは2m近い巨漢で、しかも元軍人。ムッキムキなのです。

 こちとら156cmの女子大生。いくら段持ちといえど、弱い部類の剣士だし、なにより、あんな筋肉だるまに体当りされたら死ぬ!


 とは思ってたんですが。

 練習中って、アドレナリン出まくってるし、気が大きくなってるんですよね……。おまけに負けず嫌いなもんで。「OK!」と元気よく答えてしまったのです。


 それ以来。そんな恵まれた体躯をしていたボブは、実は結構稽古の時避けられていて(特に彼より経験の浅い男性剣士に)。結構な頻度でボブの対戦相手になることに……。


「お前、すばしっこくてBumble bee(ミツバチ)みたいだな! 気に入った。また稽古申し込むぜえ」


 って感じで、ミツバチというあだなをつけられ、毎度滅多打ちされる羽目に。打ち込めば体当たりでふっとばされて宙を舞い、壁に叩きつけられ漫画のようにずり落ち。床に叩きつけられることもしばしば。


 でも若いって怖いのです。


「やったな! ミツバチミツバチうるさい!  Black Bearくろくま!今に見てな!」


「威勢がいいじゃねえか。だが、俺はBlack Bear くろくまよりも、コードネームならBlack catくろいねこちゃんが好みだがな!」


「うおりゃあああ」


「こいやー!」


 毎回毎回、こんなバトル漫画かよ、と思うようなセリフを叫びながら、やられてもやられても、跳ね上がって立ち上がり、やつの首(コテ)を取ってやろうと襲いかかっていました。


 周りを見ている剣士たちは、結構ヒヤヒヤしていたらしく。(日本の道場のような、過酷な鍛錬とか暴力とかは行われないので……私はその辺りが結構麻痺してた)


 壁に叩きつけられるたび、「Hey, she is a girl! (女の子になんてことすんだ!)」と、優しい男性陣が止めに入ってくれていたのでした(結論、私が中断しないので、続行してましたが)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る