少年と死んだ猫
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いまでも思い出すのは…
いまでも思い出すのは川を流れていく箱、おじいさんの満足げな表情、そして、父と母の優しい笑顔だ。
私がまだ子どものころのこと、
いつものように朝刊をとりに玄関を出ると、家の前の道路になにかが捨てられてた。
みると、それは死んだ猫だった。きっと車に轢かれたんだろう。
私はびっくりして家に駆け込むと、父に助けを求めた。
「とーさん!とーさん!い、家の前に・・・・」「・・・新聞は?」「あ、忘れてた。」
猫の死体のことを説明すると、物憂げな動きで父が立ち上がる、
母もすこしびっくりした顔でついてきた。私は走って家を出る。
死体をみて、父は「どこの猫だったんだろう?」と言い、母も「かわいそうに・・・・」と言った。
私はどーしようかと父の意見を聞くと父はイタズラっぽい表情になって私に聞き返す、「どーしたいのかな??」。
父がこの表情をするってことは、私に状況に対する行動と判断を求めてるってことだ。意地悪だよ・・・。
「えーっと、犬猫の話は保健所に聞くのがいいのかな?」
「でも、きょうは日曜日よ。」と母は的確な指摘をした。だが、父が反論した。
「だいじょーぶ、役所には日曜日にもこの手の相談窓口があるから、そこに電話しなさい。」
アドレスを確認し、私はデバイスに駆け寄って指定すると、電話が認識した。
「はい、○×市相談課当番局、M・広田が応対します。なにか?」
「え?、あ、えっと、家の前に、えっと、猫の死体が、猫をどーしたらいいかとお電話したんですが・・・」
「はい、犬猫の死体は生ゴミになります、もよりの地域のリサイクルの日にゴミステーションへ分別してお出し下さい。
その際、箱などに入れて・・・・」
私はびっくりして電話を切ってしまった。言われた意味が一瞬わからなかったのだが、わかるようになると憤然となった。
「とーさん!!犬猫はゴミなの?どーして!!」
父は私は新聞を読みながら悠然と聞き返す、「なんて言われたのかな?」
私は困ってしまった、父がこの態度を示す時はいつも取り付く島がないからだ。私は母のほうに顔を向けた。
「朝ごはん食べちゃいなさい」「でも、猫が・・・」
「おとうさんがね、 あなたが電話してる間に箱にしまって玄関先に置いてくれてるから、それから考えましょう?ね?」
父はほんとに意地悪だ。
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食事しながら、私が説明すると父は作り顔で困ったような言い方をした。
「役所がそーしろってならそーするしかないよな?それともどーしたいの??」
「おとうさん、食事しながら新聞読むのやめてくださいね。」
「・・・ぼくは、生き物はゴミじゃないと思う、だから、あれは間違ってるよ」
父も母もなにか得心したような笑顔をむけ合い、そしらぬ振りをして父がパンを食べつつ私に言った。
「そうだな。でも、リサイクルしなきゃ、死体でここは一杯になっちゃうよな、それはどーする?」
「おとうさん、食べながら喋るのやめてくださいね。」
「・・・公園に埋めたらどうかな?」
「そりゃダメだ、緑化整備法くらいはおまえも知ってるだろう?」
知ってた。学校で最初に習うのは環境維持の基本についてだからだ。
それを守らなければ、私たちみんなが死んでしまうから。
「・・・どーしよう・・・・。」
「どーしようかねぇ――――。」
「おとうさん、肘つくのやめてくださいね。」
私は食事を手早く終えると、もう後先考えずに自転車に乗って出かけることにした。
「結果教えてくれよなぁ~~」「おとうさん、日曜日だからってゴロゴロしないで。」
まったく呑気だよな、とその時の私は思いつつ、前カゴに猫の入った箱を入れると自転車の前に体重を掛けて出発した。
家のある居住区画は小高い丘のすそ野、大気調整用の大きな大風車施設のある丘の少し下がったところにあった。
私は坂道を降るため、自転車の後ろに体重を掛けて制動をかけつつ思案する。
まず、公園に埋める案はボツだ、罰則が厳しすぎるし、公園に穴を掘るなんて罰当たりなことは出来ない。
砂丘施設はちょっと遠すぎる。それにリゾート施設であるあそここそ警備が厳重すぎるし。
寺院や神社や教会やモスクはどうだろう、そこならスペースもある。でもリサイクルしなきゃ結局一杯になっちゃうよなぁー・・・。
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などと考え事をしていると目の前におじいさんが突然あらわれた!
私は自転車の右に体重を掛けて避けつつ、急制動のギアを目いっぱい引いて止まろうとした。
なんとか止まるのは止まったが、おじいさんがビックリしてひっくり返ってた。目の前に猫の入った箱が落ちている。
おじいさんがそれに目を留めると拾ってくれ、側溝と垣根とに分かれて落ちていた私と自転車は、
なんとか自転車を引き出すと箱を受け取りつつ謝った。
「すいませんでした、お怪我は?」「いやいや大丈夫。ワシこそボーっとしとったよ。で、その箱は?」
私は事情を説明するとおじいさんはとても真剣な表情になった。
「その中身を見せてくださらんでしょうか?」中身を見たおじいさんの表情は曇った。
「この猫はワシが飼っていたものです。いつも室内で飼っとりましたので、
たまには公園に連れて行こうと昨日、玄関を開けた拍子に逃げ出しましてな・・・、そーですか・・・。」
解決だった。
が、どうするのか気になって聞いてみると、やはりゴミとして捨てるのは忍びなさそうだった。
その時、なにかが私にささやいた。私の中にあるとても大事な何かが。
「おじいさん、お願いがあります。」私は自分でもびっくりするような行動を執っていた。
猫の処理を自分に任せて欲しいとお願いしたのだ。おじいさんは一瞬びっくりしたような顔をしたが、すぐ微笑んで
「わかりました。ぜひお願い致します。結果をどうか教えてください。この家に住んどりますから。」と言ってくれた。
我ながら、バカかな?って思ったが、もう言っちゃった後なのでどーにかなるだろう、と思い、胸を張りつつ答えた。
「任せてください!!」さあ、責任重大だ。
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アテがあるわけではなかったが、なんとはなく川に向かっていた。
すると、なにげにいいアイデアに思えてきた。
川とは、もともとコロニー内に反射した太陽光を入射させる”窓”だ。
清掃用のウォッシャー液代わりに、運河として併用してしまおうということで川としての運用が始まった。
川の最下部は二つの構造に分かれていて、太陽光入射部分の”窓”と生態系維持用の河底部に分かれており、
川の中にはロボットが沈殿物を定期的に河底部に運びつつ、
これが一杯になれば川の末端にあるリサイクル施設に流していくという構造だ。
無論、川への不法投棄も環境破壊に繋がるのは知っていた。違法である。
違法ではあるが、私は以前にも釣り人がなにかゴミを捨てているのを知っていた。
違法にも程度があるってことだ。猫の死体の入った箱の一つくらい問題ない。と思う。
護岸部に自転車を置くと周りを確認しつつ、箱を持って川の側に降りていった。
しばらく佇みながら、ちょっと考えていた。
『これはゴミステーションとどう違うんだろう?結局、リサイクルされるんだ。
こんなに苦労して、しかもリスク背負い込んで、ただの猫の死体にどうして僕はこんなに一所懸命になるんだろう?
そういえば、人間の時は葬儀をする。それぞれの神様にお願いして。魂は置いといても体は結局リサイクルされる。
公園施設の土や建造物のブロックはそうして出来たものだ。
地球と違ってスペースの限られてるコロニー内では”墓”というものは作れない。
だから、みんな祖先の遺骸で出来た資材を自分の住む居住区内に活用する。
私の死んだおばあちゃんも上垣の土になってるから、家族は毎朝お祈りを欠かさない。
でも、リサイクルとは基本的には変わりがないんだ。
なにが違うんだろう??』
そう思いつつ、僕は猫の箱を開けてみることにした。すると、私はビックリした。
猫の死体の上にはヒヤシンスの花が載っていたんのだ。母が大事に育ててる花だ。
私が生まれる前に死んだ姉さんの遺骸を土にして作ってる大事な花だ。しかも二束も。
たぶん、父のアイディアだと気が付いた。
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それで判った。全部判った。
私が今やっていることは全部正しいんだ、やり方は違法なのかもしれないが。
過程なんだ。結果のための流れなんだ。川を見つめてそう気が付いた。神様って大切なんだと。
そう納得すると、星の流れる川に猫の遺骸を入れた箱をそっと流した。
ゆっくり、箱は回りながら川を流れていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
帰り道、おじいさんの家に寄って次第を説明する、おじいさんは喜んでくれた。
家に着くと、ゴロゴロとプロレスを見ていた父と洗濯を畳む母にやはり次第を説明して、ヒヤシンスの礼を言った。
あれから、もう20年以上経つ。
私はロケットモ―ターのエンジニアになって、各コロニーに旅にでるが、
いま父と母は、家で妻が世話をするチューリップを育ててくれている。
私は帰ると必ずお祈りを欠かさない。
この話は誰にもしたことはない、が、今でも大切な想い出である。
少年と死んだ猫 GacHaPR1Us @gedohis
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