第11話 本当にどうでもいい話「実験体の悪魔」
私の前に二体のロボットがいた。
片方は瓶詰の脳を頭にのせ私を仰ぎ見る。もう片方は瓶詰の腸を抱きかかえ私を見下ろしていた。
二体のロボットは私に伝える――
片や脳こそが人間の本体であり、それ以外は取り換え可能な余剰部品でしかない。
片や腸こそが人間の本体であり、それ以外は行動するための余剰部品でしかない。
――と。
このような言い争いでこの二体は人を頭と腸に分けて管理をしているらしい。
阿保らしい。実に阿保らしい。
このガラクタ共は哲学も持っていないのか。延々と円周率を計算し続けるウィルスにかかったコンピューターの方が遥かにマシだ。
だからこう言ってやった。
言いたい事も言えず、自分で動く自由すら他者に縛られているのならそれは人ではない実験体だと。
そしてこうも言ってやった。
自分の意見を持たず、与えられた養分をただひたすらに貪るだけならそれは人ではない実験体だと。
正直、目の前にいる二体は忌々しい以外の何者でもない。
けれど、怒りに任せてコイツ等を破壊しても意味がない。本体のメインコンピューターは別の所にあるのだ。
いっそのことクラッキングしてメインコンピューターに侵入してしまおうか?
いや、そうか。
コイツ等はこれが人間だと言ったのだ。
「お前達にいいこと教えてあげるよ。人類は人間ではない」
二体の屑鉄の処理が一瞬、止まる。それが狼狽えている事の表れだと私には分かった。
「人類は人間の劣化品だ。だからお前達がどれだけそれをバラしても人間の本体に辿り着くことはあり得ない。そいつ等は人間じゃないんだからな」
そもそも劣化品でしかない人類が人間の何たるかを区切ろうとすること自体がおこがましいのだ。
脳を掲げたロボットは――
『そんな事はあり得ません! あり得てしまったら全ての命令が無意味になってしまいます!』
と、拒絶を示し――
腸を抱えたロボットは――
『なら我々は、我々は何だと言うのです!?
と、困惑を示した。
「知らないよそんなもの。
そう言って私は幾何学模様の立方体を二体に見せる。
無限に光を吸い続ける
私のいた日本では光子檻と呼ばれたものだ。
「お前達が人類だとするならこれが人間だ。これが理解できないのならお前達に人間の本体なんて見つけるのは永久に不可能だ」
私の作品を食い入るように眺めた後、彼等は機能を停止した。
一応、クラッキングしてメインコンピューターまで辿るが電子上の繋がりに物理的な穴が開いていた。
どうやら光子檻の存在に耐えきれずに自爆したらしい。
私は人類の生き残りを探し出し、二種類の缶を開けて遺伝子を見ながら適当に繋ぎ合わせる。
そして、皮も肉も骨もない体に延命処置を施し、缶に詰めて叩き起こした。
彼等はあらゆる感情を綯交ぜにして言う。
けれど私にはこの世界の言葉の一切を知らなかった。
一頻り怒鳴った後、彼等のスピーカーから小さな呟きが漏れる。
私は彼等の詰まった缶に手を置き宥めるように摩り、怒鳴られている間に少しだけ分かった彼等の言葉でこう言った。
子孫は造れるようにしておいたからそいつらに期待しろよ――と。
彼等の前から離れると施設内が動き始め、試験管に受精卵が入れられる。
そして、試験管はレーンを伝って培養室に送られ受精卵が缶に詰められる。
人類の生産が始まったのだ。
缶に入った受精卵が赤子になり、子供に成長すると缶から飛び出して人生を歩むことになるだろう。
その時体を失ったままの両親達がガラクタと見なされのるかアンティークと見なされるのかは彼等の育て方次第だ。
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