第8話 本当にどうでもいい話「続・新米冒険者」

 

 これはワシが店番をしていた時の話じゃ。

 工房長は打った剣を都へ届けに行って今はおらん。


 開店の準備をしておると怒声やら悲鳴やらよう分からんもんが聞こえ始めよる。

 そして、扉を開けて何やら喧しいのがやって来よった。

 この喧しいのは巷を騒がせておるひよっこ冒険者の小僧じゃ。


「おやっさん! ハルバード造ってくれよ! ハルバード!」


 この小僧っこはまた変なことを言い出しよる。

「唐突に来おってからに。ハル……ハル……なんじゃいそれは?」


「今、都でブームな武器らしくてさ! 斧に槍が付いたやつらしいんだよ!」


「斧に槍……また、えらく珍妙じゃのう?」

 工房長なら知っとるかもしれんがワシは昔ながらの鍛冶師じゃからのう。

 ハイカラなモンにはちと弱いんじゃよ。


「頼むよう~! 造ってくれよ、おやっさん」

 小僧がしがみ付くように頼んできよる。コラッ、人の服で鼻水を拭くでない。


「造るのはいいが。お前さん、借金こさえてヒイヒイ言ってたばかりじゃろ。散財して大丈夫なんかのう」


 ワシの心配をよそにこの小僧はにかっと笑って言いおった。

「一発当てたばかりだから大丈夫!」


 こりゃ、何を言っても駄目じゃな…………



 数日後。


 何時もの様に小僧が現れよる。この喧しさにはもう慣れたわい。


 店の中をキョロキョロと見まわして工房長を探す小僧を手招きして昨日の晩にできた注文の品を見せる。

「ほれ、出来とるぞい」


 今回は金が足らんかったんで量産品の斧に長柄と槍の穂先を二つくっつけて完成させた。


 造ったワシが言うのもなんじゃがなんとも珍妙な得物じゃのう。


「そうそう、こんな感じで斧がついてて槍がついてて……って、何か違うっすよおぉぉ!!」


 そう言われてもお前さんの言う通りに造ったまでじゃ。



 その後。


 都で剣の納品を終え、色々ありながらも街へと戻り工房に辿り着く。

 その途中でおかしな物を見た。 


 あれは長い槍の穂先の部分に斧が取り付けられ、斧の両側に槍の穂先が付いていた。

 西遊記の沙悟浄が持っていた降妖宝杖の半月ではなく反対側の鋤の方の形状に似ていた。


 最近は長柄物に個性を出すのがこの国のブームなのだろうか?

 私も現代知識の粋を生かして矛の先に盾でもつけてみようか。いやもっと現代人っぽく重粒子粉砕機でもつけてみようか。


 そんな事を考えながら工房の扉を潜るとオヤジさんが出迎えてくれた。

 

 私はオヤジさんに旅の出来事を語り、土産として都で話題になっていた新型の長柄物を渡す。


 その長柄物は斧の刃に二本の突起物の付いた武器だ。

 この突起物は穴を開けるだけでなく、斧で叩きつける際に対象物の逃げ場を阻害する作用があるとのことだ。


 土産を見たオヤジの眉間に皺が寄る。

「もう、あの小僧の言う事は信じんぞい……」


 どうやら、あの新米冒険者がまた何かをやらかしたらしい。




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