第7話 「坂の下に見えたあの街に」(開演10日前)

 ある社会学者が今回の尾崎の件を「尾崎による集団自殺」と呼び、参加することをやめるよう促した。また、ある一般の方は尾崎を「10代天才、20代普通の人」と称しリスクを冒してまでコンサートに行く価値はないと言った。社会の趨勢はコンサートにかなり否定的であった。

 

 僕はコンサートに着ていく革ジャンが欲しかった。それで古着屋に行こうと思い、ちょっとよる所があったのでその書類を持って家を出た。

 母の耳が悪くなってきていたので眼鏡店を見かけては補聴器を探すため尋ねていた。凄い数見たと思う。で、不思議なもので自分の眼鏡を作った店と商談していた。


 「店長、こんにちは」「荒木様、いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ」「御免なさい。遅くてなって」「特許の方は……」

「提出しましたよ。はい、これ写し」「ありがとうございます。すいません、急がしまして……会社がうるさくて」「他社に売る気はないので安心してください。この書類で金型が作れると思いますのでデモ機を1月30日までに仕上げて下さい。取りに参ります」「はい。書類をちょっと拝見させていただいてよろしいですか?……」「どうぞ。私は行く所があるのでこれで失礼します。宜しくお願いします」「あ、はい、ありがとうございました」私は店を出た。店長は店の他の社員に「これでメガネ屋の看板が変わるぞ」と言って興奮気味に書類にかぶりついた。


 季節ごとに使う古着屋に着いた。いつもきれいな店構えだ。まず時計を見る。まるっきりダメだ。続いて革ジャン。まるっきりダメ。どうしよう。だいたい黄泉の温度がわからない。Tシャツでいいのかな?う~ん帰ろう。

 

 なんだかネットが騒いでいる。見てみると。

え! H.Sがコメントを出した!


「尾崎君のコンサート行きます。彼は寂しがりやだから行ってあげないとね(笑)それに1曲歌ってくださいっていうんだよ。歌うよ、もともと彼をモデルにした歌だからね

『N・BOY』」

次に、

「私もいきます。W.Mです。あの人は私にも歌ってくれって。本当にわがままだと思います。憎めない人だけど。Your Revolution 歌います」

次は、

「K.Tです。私は招待がないので行けません。行きたいです。私も懸命に歌を作ってますが尾崎さんの『坂の下に見えたあの街に』みたいな曲を作りたいです。今後100年以内に彼以上の歌手が誕生することはないでしょう」


 このあとも尾崎のコンサートに肯定的で影響力のある方のコメントが続き、親世代から子世代に浸透していくがごとく「尾崎って何者なの?」と認知度が凄いスピードで広がっていった。それに伴い尾崎のコンサートに否定的な意見はなりを潜めていった。

 

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