第3話 15年間の会話
月に1度、車で2時間かけて通院している。35歳からだから15年になる。初診の先生から変わっていない。先生は医院長になり僕は派遣社員になった。今、病院は増改築をしていて裏口が入口になっている。工事現場で働く人を見て自分ではとても勤まらないと思いながら先を急いだ。
「ワァオ、キィ―ヤ」病室から聞こえる男の呻き声を無視して入口に向かう。先生は時間に厳しい、というか忙しい。
「こんにちは、寒くなりましたね。さあ、どうですか」こんな具合で始まる。時間にして10分くらいの診断だ。通院が大変で1度、先生に転院したいと言ったことがあったが「月に1度くらい気分転換に来なさい」と許してくれなかった。そう、さすがに15年分のカルテを引き継げる医者はそうはいないだろうし、私も15年間を振り返って話す気にはならない。でも、いつかそういう日がくるのだろう。私の病気は治らないのだから……
「パチンコはまだ行ってますか?」「はい」
「いくら負けましたか?」「45000円」「ギャンブル依存は怖いですね……」「奥さまとは」「今だ別居中です」「私にはいい夫婦に見えたのですがね?」「借金は全部でいくらになりましたか?」「3百万円」「う~ん、パチンコ辞めなさい」「はい……」
「あなた、お母さまの全てを受け入れてくれる愛と奥さまからの愛を履き違えていませんか?奥さまの愛には限度がありますよ。あなたの奥さまは何度あなたから裏切られてきましたか?あなたが1番わかるでしょ?」「はい……」「はい、では来月は……」という流れで診断が終わる。
その後、薬局でこれでもかというくらいの量の薬をもらって、反省し、いじけて2時間かけて帰る。憂鬱な土曜日が月に1度、待っているわけだ。ただ先生にうその報告だけはしないと決めている。この世で1番の私の理解者であるからだ。
「あ―終わった。今度、入院できないか先生に聞いてみよう~。精神病院でバカンスだ」
ダメだ。メンタルが壊れてる。違うこと考えよう。『Re:Birth』にするか。「尾崎ではないかも?」と思うようになっていた。彼がもう一度みんなの前で歌いたいと思うかな?なにもかもいやになって薬の過剰摂取で死んだと僕は思っている。なのに今更……では誰? フレディではないか!クィーンだ。どうだ!でも待てよ、尾崎なら東京。フレディならロンドンだ。ロンドンなんてお金がなくて行けないよ。頼むよ尾崎、日比谷で歌ってくれ。
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