第2話 恋が始まる10分前?大みそかは、いつもので

「って、これじゃあ、突っ込みどころ満載じゃね?」

遥翔は乱雑に書きなぐられた紙を手に持ったまま、学習机の前の回転いすをぐるりと回す。そして遥翔は目の前の炬燵の反対側に座っている三波に向かって言った。



「なんで?かわいいじゃない。恋の始まる10秒前みたいで」

「この後10秒で恋に落ちるか?このウサギとシェパード」

「落ちる。落ちる。絶対落ちる。落ちないと、テーマにそらないでしょ」

まっすぐな黒髪を二つに縛り、ビンの底のような分厚いガラスでできたメガネをかけて、半纏を着ている三波とよばれる女子が答えた。

スエットに半纏を着る、ぼさぼさ頭のイケメンは遥翔は炬燵に座る三波を見下ろしている遥翔は大きくため息をついた。


「おまえ、恋愛もしたことないのによく、このコンテストやろうと思うな」

「だって・・・イラストで食べていきたいもん」

「だからって俺も巻き込むなよ」

「あんたの音楽にあたしのイラストが人気でたらウインウインじゃん」

「そうは言ってもだな・・・ウサギと、シェパードの恋愛をどうやって音にすればいいっていうんだ?」

「それはそっちの才能の問題でしょ」

「恋愛もまともにしたことないくせに」

「そんなこと・・・」


三波の言葉はしりすぼみ・・・。だって、遥翔の言う通り・・・年齢=彼氏いない歴だ。


「せめて、人間だったら・・・それらしくなるんじゃね」


遥翔は優しく言うけれど・・・

「人間が書けないのはわかってるじゃん・・・」

「だから宇宙って・・・」

「宇宙は好きなの知ってるでしょ!」

三波のほっぺはぷくりと膨らんだ。


「ああ・・・わかってる。三波のことは何でもわかる。私たちは幼馴染。家も隣同士で生まれてからずっと一緒。三波は顔にすぐ出るから、嘘なんて付けない。現実で恋愛経験ないから人間で恋愛は書けない。だから妄想世界の獣人たちで動かすのはよく知っているよ。あとは俺様の音楽の才能で、何とかするしかないか~」


ヘッドフォンをつけて机の上のパソコンとキーボードで音を作り上げていく。嬉しそうに。



船の汽笛が一回鳴った。


「えっ」

三波は驚いたように頭を上げた。

「遥翔!ハル!やばい!年越えちゃった!」

三波は大きな声で遥翔を呼ぶが、ヘッドフォンをしている遥翔は気が付かない。

三波は炬燵から立ち上がり、遥翔のヘットフォンをとる。


イイ感じのメロディーが流れて、三波はヘッドフォンから洩れる音に耳を澄ませたが・・・



再び、遠くで汽笛の鳴る音が・・・・。



「やばい年が明けたのか?」


遥翔は壁にかかっている時計を見て続けて言う。


「まだ間に合う。あの船、3分フライングしてる」


三波は炬燵の横に置いてあるお盆の上の『赤いきつねうどん』と『緑のたぬきそば』の外パッケージを急いで破りふたをあけると、炬燵の上に散らかっている紙の上にドンとのせる。遥翔は慣れた手つきでお湯を入れる。三波は急いで台所へ向かった。


遥翔は、散らかっている机の原稿たちを一つに片付け、それぞれの箸を迷うことなくおいていく。


と同時に三波が部屋に戻ってきた。昨日一緒にスーパーで買った海老天と刻んだネギがはいったお皿を持って。


寒い台所から暖かい部屋に戻ってきてメガネが曇る。


「は~やっぱり、この部屋はあったかいね。メガネがこんなだよ」


メガネを取って遥翔に曇るメガネを見せる三波。


寒い所から戻ってきた三波のほっぺは赤く染まっていて、メガネを外した三波はうるんでいて・・・一番かわいくて、俺しか知らない三波の姿。今年も見られたことに嬉しさと喜びがあるなんて・・・鈍感な三波は気づいてないだろうな。



台所から戻ってきて、目に入った遥翔は髪も乱れて、半纏を着て・・疲れて、だらしない姿だけど・・・その疲れて乱れた感じがキュンってくることを遥翔はしならい。



あちこちから汽笛が上がる。港に停泊している船たちからの新年の挨拶だ。


「3分たった」

「年があけちゃった」

二人の声がかぶった。

「「いそいで食べよう」」

二人の声がそろった。



急いでふたを開けて海老天をそれぞれのどんぶりにのせる遥翔。

手際よく刻みネギをかける三波。

後のせかき揚げを半分にわって三波は自分の目の前のと隣のどんぶりにさっと乗せる。

だって遥翔はそばアレルギーがあるから。

いつものようにセットすると新年の挨拶もそこそこにほおばる。



今年こそ、告白をしたい!!というか俺の愛をわかってほしい!!心の中で誓う遥翔は、緑のたぬきそばをすする三波をこっそりみていた。


今年こそ、新作動画をバンバン作って、コンテストでも入賞をして、少しでも遥翔の役に立ちたい・・・そしたらイケメン遥翔の傍にいても許されるかな・・・と思って遥翔の赤いきつねうどんをすする音を心地よく聞きながら・・・一生懸命緑のたぬきそばをすする、三波。



一息ついて。


「どうして、毎年、年明けちゃうんだろう」

「三波の準備がおそいからだろ?」

「遥翔がいつまでも作業をつづけてるからじゃん」


いつもと同じ会話が始まる。


いつもと同じ大みそか。

いつもと同じ新年。


夜は更けてゆく。












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恋の始まる・・・ちょっと前 福江まーさ @marsa-f

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