第17話・ヒロインの自業自得


「先輩は、ニコレ嬢とは長い付き合いなのですよね?」

「……5歳の頃に婚約してからの付き合いだから12年ぐらいになる」

「その先輩がぽっと出のわずか数週間、共にいただけのメローネの言い分を信じるのですか?」

「……」

「私は前から思っていたのですが、先輩のように騎士道に通じた方々は、脳にまで筋肉が詰まっているのでしょうか?」

「きみ、失礼だぞ」


 マリーザの嫌味とも取れる言葉を、ルアンは避難した。マリーザは口先だけの謝罪をした。


「ああ。申しわけありません。だからそこにいる貞操ゆるゆるのピンク頭の女に皆さん、騙されてしまうのかと思いまして。そこにいる彼女とは私も付き合いが長いもので、彼女が良く嘘をつくことを知っているのです。もうね、本当に嫌になります。振り回されすぎて」

「マリーちゃん、そんな言い方酷い。それではわたしが嘘つき女みたいじゃない。本当のことなのに。信じて……」

「嘘泣きは止しなさい。メローネ。癖になっているわよ」


 メローネが涙を浮かべたところで、マリーザは釘を刺すことにした。すると器用にも涙は止まった。


「これ以上、しでかさない方がいいんじゃないかしら? メローネ。自分の首を絞めることになるわよ」

「何を言うの? マリーちゃん」

「あなたがしでかした事、サロモネ男爵には報告済みだから。今度、何か問題を起こしたら退学させるって、男爵さまは言っていらしたわ」

「そんな話、聞いてない」

「あなたには黙って、様子を見てもらうことにしてあるもの。第一、私とニコラスさまの婚約を壊しかけたことで、宰相さまからご不興を買っていることに気がつかなかったの?」


 マリーザの口からメローネが、宰相の不興を買ったと聞き、ルアンはさりげなくメローネから距離を取っていた。


「伯父さまから不興? そんな訳ないじゃない。お祖父さまはお母さまや、私を可愛がって下さっているのに?」

「そう思いたかったら思っていれば? 私は忠告したわよ」


 マリーザは、メローネから視線を外すと、ルアンに言った。


「ニコレさまは、先輩がこのメローネと噂が立っても、庇い立てなさっていました。先輩がメローネさまと一緒にお昼を取っているのには、何か訳があるのだろうからと。それなのにそこにいる嘘つき娘の言うことを鵜呑みにして、許婚を悪く言うなんて先輩を見損ないました」

「ミラジェン子爵令嬢。僕が間違っていた。ニコレ、済まなかった」


 ルアンは素直に自分の非を認めた。ニコレにも謝る。ニコレ嬢はそれを許したようだった。面白くなさそうなのはメローネだった。


「マリーちゃん。私に謝って。私が嘘つきだなんて言いがかりよ。それに仲間はずれにされているのは本当の事よ」

「皆から仲間はずれにされているのは当然でしょう。あなたの自業自得なのだから」

「自業自得? 私、何もしてないわ」


「前からあなたの態度は変わらないのね。私達がいつあなたを虐めたのかしら? そのせいで独りぼっちだなんて言って、男の子達の同情引くのは止めてもらえないかしら? それに今回はニコレさまの名前を挙げて、虐められたと言っていたけど大丈夫かしら? 宰相さまが知ったなら事の真相を調べることになるし、男爵さまも事と場合によっては責任を取らされることになるわよ」


「それは……、マリーちゃん。ごめんなさい。それは勘違いだったかも知れないわ。ニコレさまに違いないと言う人がいたから……」

「あなたが謝る相手は違うでしょう?」


 メローネはしおらしい態度を取ったが、心からそう思ってないのは分かる。マリーザを睨んでいるからだ。


「あの、ルアン先輩、ニコレさまごめんなさい」

「メローネ嬢。僕もきみの言い分だけ信じてしまって悪かったけど、きみも他の人を傷つけるような嘘をつくのはいけないよ。もうこんな事はしないようにね」


「……はい」


「もうこれ以上、誤解されるのも困るから僕はきみとの昼食は止める。僕が間違っていた。ニコレなら分かってくれると思ってきみに付き合っていたけど、よく考えたらメローネ嬢は、他の女子生徒と交流を深めるべきだ。ごめんね、ニコレ。もうきみを悲しませることはしない」

「大丈夫です。ルアンさま。信じていました」

「本当にごめん。きみにはきついことも言ってしまった」


 ルアンはニコレとの誤解が解けたようだ。良かったとマリーザが思っていると、メローネは忌々しい顔付きをして黙って走り去って行った。謝りもしないその態度に苛立ちを覚えたが、ニコレから声をかけられてマリーザは遠ざかるメローネから目を離した。


「マリーザさま、ジオヴァナさま。ありがとうございました」

「先輩と誤解が解けて良かったですね」

「はい」


 ニコレ嬢は嬉しそうに微笑んでいた。それを見てマリーザは、思い切って声をかけて良かったと思った。彼女とはこれを機会にマリーザは仲良くなっていくことになる。

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