第3話・悪役令嬢の秘密


「メローネさん。お体が弱いのには同情するわ。こうして学校に通うのにも大変なのでしょうね。お気の毒に。この一年、ほぼ保健室にいたと聞いているわ。無理せず休学なさったら? もし、良かったらうちの腕の良い主治医をご紹介致しましょうか?」

「いえ。大丈夫です。ここの所は身体の調子も良いので……」


 ジオヴァナは眉尻を下げて、いかにも同情していますのよという姿勢を崩さなかった。エスメラルダ公爵令嬢であるジオヴァナは、ストレートの銀髪に紫がかった青色の瞳をした美人だ。その上、この国の第3王子サンドリーノ殿下の許婚でもあり、気品もある。

 その彼女から声をかけられて、メローネは後退りをしつつ、マリーザに恨めしい目線を投げてきた。


「あらそう? 遠慮なさらないでね。体が辛いときは無理をなさらないで。マリーも心配していてよ。こうして廊下で騒いでいたら目立ちますし、万が一、メローネさまがお勉強について行けなくて、宿題をマリーにやらせようとしていたなんて不正の噂が立ったりしたら、休学どころではなくなるかもしれないわ」


 ジオヴァナは容赦がなかった。彼女は声を張り上げて言ったので、それを聞いた周囲の女生徒達から

「不正ですって」「宿題をマリーザさまにやらせようとするなんて厚かましくない?」と、声が上がりだし、メローネは周囲の反応を見て「そんなつもりじゃ……」と、慌てて手を振ったが意味がなかった。


 メローネは男子生徒には人気があるものの、男子に馴れ馴れしすぎると、女生徒には嫌われていた。同性の彼女を見る目が辛くなるのはそのせいだ。異性に庇われていても、同性から反感を喰らって分が悪いと感じたのだろう。メローネは大人しくなった。


「あの……、失礼します。行きましょう、マックス」

「メローネ。もう良いのか?」

「いいのよ。行きましょう」


 メローネは踵を返した。慌ててその後をマックスが追っていく。騒々しい人達だ。


「ありがとう。ジオ」

「これは貸しだからな」


 お礼を言えば、ジオヴァナはマリーザに顔を近づけ、耳元でボソッと囁いた。その声は今まで話していた声とは違い、男性特有の低い声になった。その声には色気のようなものが感じられて背筋がゾクゾクする。思わず耳を押さえてジオヴァナを見返せば、可笑しそうな顔をしていた。


「分かったわ。対価はなに?」

「七色の薔薇シュガー宜しく。あの子が今度のお茶会で使いたいらしいの」


 今度は今まで会話していた声の高さに戻った。彼女、いや彼は七色の声の持ち主だ。その事を知るのはこの学園ではマリーザだけ。ある事情により彼「シルヴィオ」は、彼にうり二つの双子の妹、ジオヴァナに成りすまし、この学園に通っていた。ジオヴァナのこともマリーザは良く知っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る