✋あなたのお助けキャラは断固拒否します!

朝比奈 呈🐣

第1話・マリーちゃんの意地悪


「マリーちゃん、お願い。宿題が終わらないの、手伝って~」

「えっ? メローネ。まだやってなかったの? これって3週間前に出された宿題じゃない。毎日、少しずつやっていたら、こんなことにはならないでしょう?」


 マリーザはまたかと思った。休み時間にメローネが、自分のいるクラスを訪ねて来た時から嫌な予感はしていた。自分の顔を見るなり、宿題のプリントの束を差し出してきた彼女の顔を見て、その頭は飾り物か? 鶏冠なのか? と、言いたくなる。


「マリーちゃんなら、こんなの簡単に出来るでしょう? マリーちゃんは、お助けキャラなんだから、わたしの代わりにやっといてよ」

「何度も言っているけど、宿題は自分でやりなさい。お断りよ」


 マリーザが断ると、メローネはぷうっと頬を膨らませる。彼女の「手伝ってよ」は、「自分の変わりにやっておいてよ」の言葉と同義だ。嫌でも付き合いが長くなってしまった彼女のやり口は心得ている。

 同じ16歳だというのに、マリーザから見るメローネの言動は、不自然なほど幼すぎた。あざといというか何と言うか。少しでも可愛く見せようと振る舞っているのが、あからさまで見ていて不快でしかない。


「そんな言い方、しなくてもいいじゃない。マリーちゃんの意地悪~」


 この年になって、「マリーちゃん」はないだろう。同じ年齢なのに彼女の精神年齢を疑いたくなる。ここは王都に住む貴族子女らが通う学園。

 皆、家名か名前で呼び合うのが常識だ。親しくなってくると愛称で呼び合うこともあるが、幼い子供じゃあるまいし「ちゃん」呼びはない。


 その彼女は、マリーザに拒まれて涙目になった。この先は簡単に予想出来た。彼女お得意の泣き落としが始まると。周囲には数名の生徒達がいる。

 ここで下手に注目を浴びたくないと思っていると、メローネと同じクラスの男子生徒が、廊下の向こう側からバタバタと駆けつけて来た。


「メローネ、どうした? 何があった?」

「マックス。わたし、なかなか勉強がはかどらなくて、マリーちゃんに……」


 メローネは上目遣いに、マリーザを見る。そこに作為的なものを感じる。彼女は自分の見せ方というものを知っているのだ。


 黒髪に緑色の瞳をした、女生徒の中では細身で背の高い方であるマリーザと、華奢で小柄なピンクの髪に空色の瞳をした小動物のようなメローネなら、男子生徒達の目は迷いなくメローネに向く。

 彼女がここで涙の一つも浮かべれば、それだけで勝手に男子生徒達は誤解してくれる。廊下で仲間と雑談していた他の男子生徒達は、可愛い彼女が涙目になっているのを見てマリーザが、メローネに何か言って泣かせたように見えたようだ。こぞって批難の目を向けてきた。


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