第2話 朝に出逢った転校生

 歩くこと15分。

 学園についた。


「皆おはよう」

「おはようございます」


 挨拶をしながら2人して教室に入ると、挨拶ではなく騒ぎ声が返ってきた。クラス全体が騒がしさに包まれていた。そして、皆が浮き出しだってるような印象を感じ取れた。

 男女関係なく騒がしくなっているが、特に男子がお祭り騒ぎになっている。ここまでクラス全体が騒いでいるのは始めてのため思わず戸惑ってしまう。

 隣の星華も少し戸惑っていた。


「星華は何か心当たりあるか?」

「私はありません。希望は?」

「俺も特にないな」


 2人して戸惑いが隠せない。

 このままでは埒が明かない。

 教室を見渡してると、去年も同じクラスで俺と星華の共通の友人になる田甫和宏たぼかずひろがいた。和宏とは休日に徹夜でゲームをしたり、近くの運動公園で遊んだりしている仲だ。

 ちなみに、イケメンでスポーツも勉強もできるため、学年関係なく女子からはモテモテだ。

 とりあえず状況を把握するために話しかけた。


「よっ!和宏。この騒ぎはなんなんだ?」

「あ、おはよ希望。俺もさっき知ったばかりなんだけど、どうやら転校生が来るらしいんだよ!しかも、とびっきり可愛い女の子らしい!!」


 なるほど。

 登校中に星華から聞いてた転校生の話が教室でも広まっていたからなのか。


「あー、その話ね」

「あれ?希望のくせにあんま驚かないんだな」

「待て待て、その言い方は誤解を招く」


 ほら、隣りにいる星華の視線がまた冷たくなってる。

 今度こそ蹴りが飛んできそうだ。


「俺はさっき星華から聞いてたからそこまで驚いてないだけだ」

「そうだったのか。クラス委員もさっき聞いたばかりっていうのに天埜さん情報通だな」

「いえいえ、私は昨日たまたま先生たちの会話を聞いただけですから」


 クラス委員も知らなかったことを知ってるなんて、星華って情報通なのか。


「ほら、お前ら座れ。HRの時間だぞ」


 担任の竹居先生がやって来た。それと同時に教室の騒がしさはなくなった。

 竹居光太郎たけいこうたろう。俺たち2年Dルームの担任だ。式典でしかスーツ姿を見ることはなく、基本的はジャージのような格好をしている。本人曰く「スーツは窮屈。着る必要性が分からない。着ても着なくても話す内容は変化することない」らしい。

 俺たち生徒からの人気はあり、授業は分かりやすく相談にも乗ってくれると評判だ。個人的には、たまに授業が脱線して話すオカルトチックな話が好きだ。

 最近の授業で話してた「この国には守る神がいて、数年ごとに生贄を必要としている」という話が印象に残っている。


「じゃ、希望に天埜さんまた後でな」

「おう。星華俺たちも座ろう」

「はい」


 各々自分の席に向かった。

 和宏は先生の目の前で、星華は俺の前の席になる。俺は1番後ろの窓際の席だ。学園ものの物語では主人公の定位置となっている。そして窓から外を見てると女の子が降ってきたりするのが定番だが、現実ではもちろんそんなことは起こらない。

 それでも授業中とかに窓から見る空は好きだ。どこか別の場所に行けるような気がするからだ。見すぎると星華によそ見するなって怒られてしまうから気をつける必要がある。


「よし全員座ったな。朝のHRを始める。まぁ、お前らはもう知ってると思うが転校生が来てる」


 竹居先生の言葉でどっと盛り上がる教室。先程までの騒がしさが一瞬にして戻ってきた。


「おい、お前ら落ち着け。そんなに盛り上がってると転校生来づらいだろ」


 竹居先生の言葉で静けさを取り戻す教室。皆の切り替えの早さが完璧すぎる。


「切り替えの早さには関心するよ。じゃあ、朝比奈入ってこい」


 扉に注目が集まる。

 まるで芸能人を見ているような視線のなか静かに歩いてきた。星華よりは背が低い。しかし大人びいている黒髪のロングヘア。そのミスマッチがより一層転校生のことを注目させる。可愛いと美しいを両立しているようだった。

 そして、制服の上からでも分かるような巨乳だった。

 扉から教壇の中心に来るまで思わず転校生を目で追ってしまう。

 それはクラスにいる殆どの人が同じだった。


「皆さんはじめまして。本日から2年Dルームでお世話になります朝比奈未生あさひなみきです」


 そう言うと、お辞儀をしてニコッと笑った。

 思わずその笑顔に見惚れてしまった。モデルや女優の笑顔は綺麗と感じるが、朝比奈さんの笑顔は可愛いと感じた。初めての経験だった。


「えっと、ほんとは新学期のタイミングで転校する予定でしたが、両親の仕事の都合でこんな微妙な時期になりました」


 そういえば制服この学園のじゃないな。

 この学園の制服は白のブレザーだが、朝比奈さんの制服はセーラー服だ。セーラ服とか物語でしか見たことなかったから新鮮味がある。


「これからの学園生活よろしくお願いします」


 そう言い終えると、もう1度深々とお辞儀をした。


「朝比奈自己紹介ありがとう。お前ら改めて転校生の朝比奈未生だ。制服は間に合わなかったから前の学校の制服を着てる」


 そういうことね


「知らないことも多いと思うから皆は仲良くしてやってくれ。えっと席は……」


 教室を見渡している竹居先生と目が合う。そして何かを企んでいるような表情でニヤッとされた。

 あれは何か企んでいる顔だな。


「じゃあ、目が合ったから……國立の隣が朝比奈の席だ」

「そんな理由で決まるの!?」


 教室に笑いが起こる。


「別にいいだろ。そこなら天埜が近くにいるからなんとかなりそうだし。それにお前は俺に歯向かうことなんてできないだろ」

「それは確かに……てか、まさかの俺星華のおまけ扱いなの!?」

「騒ぐな騒ぐな、朝比奈隣がうるさくて大変かもしれないが頑張ってくれ。何か分からないことあったら天埜に聞いてくれ」

「あっ、えっと……はい?」


 朝比奈さんは見るからに戸惑っている。

 せっかく可愛い子だったのに変なやつ認定されてしまったのか。されてたら悲しいな。


「よろしくね。國立くん」

「おう、よろしくな」


 席に座ると挨拶をされた。どうやらまだ変なやつ認定はされてなかった。一安心。

 朝比奈さんが席につくと、いつものように委員会や部活の連絡事項があってHRは終わった。

 その後は転校生特有の質問攻めにあっていたが、すぐにチャイムが鳴って授業になる。質問攻めは次の休み時間に持ち越された。

 俺は参加しないで隣で聞き耳を立てるだけのつもりだ。

 1限目の授業が始まり皆が教科書を開くなか、朝比奈さんは困ってそうな表情をした。机を見るとノートしかなかった。転校初日で教科書も準備できてなかったのか。


「朝比奈さん」


 授業中だから小さめの声で話しかける。

 朝比奈さんがこっちを見てくる。


「教科書ないの?」

「うん、まだ準備できてなくて」


 ビンゴだ。


「じゃあ一緒に見よう」

「いいの?國立くんの迷惑になるんじゃないの?」

「こんくらいじゃ迷惑になんてならない。それにお隣さんのよしみってやつだ」

「じゃあお言葉に甘えて」


 朝比奈さんが机をくっつける。

 距離が近くなってドキッとした。近くで見ても可愛い。それにいい匂いもする。これは、彼女いない歴=年齢の俺には少しばかり刺激が強すぎる。


「國立くんありがとね」


 朝比奈さんは俺がそんなことになってるいることを知る由もなく、感謝の言葉を述べていたのであった。

 俺は無言で頷くことしかできなかった。

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