君の青春は、炭酸水のようだった。

長月紅葉

Episode1 私青春らしいことがしたいんだ

第1話 いつもの通学路

「ふわぁぁぁ。眠い」


 あくびをしながら俺──國立希望くにたちのぞむは学園に向けて歩いている。その足取りは重く、近くを歩くサラリーマンに抜かされていた。

 眠い。そんなことを考えてると、またあくびをしそうになる。別に夜ふかしをしている訳ではない。しっかりと夜は11時までには寝ていて、夜ふかしすることは今までなかった。

 それでも眠さはある。

 もう少し朝起きるのを遅くすればいいという意見もあると思う。実際、俺もそう感じている。睡眠時間が増えれば眠さがなくなる気がしている。

 しかし、それは不可能だ。

 俺が通っている学園では8時登校という謎の規則が存在しているからだ。進学校に分類されるため勉強をする機会が多い。そんな中、さらに勉強をする時間を増やそうというコンセプトで誕生したのが8時登校だ。

 それも今年になって突然誕生した。最初の頃は反発の声も多かったが、現在ではいつの間にか学園生活の一部として認識されている。イレギュラーは慣れてしまうとレギュラーになってしまうのだ。

 誕生した要因としては、去年東大に合格した先輩が朝8時には登校して学園で勉強していたからだとされている。まぁ、あくまでも風の噂だ。

 朝8時から勉強して東大行けるなら、きっと来年は東大進学率が高くなるんだろう。来年に先輩たちの進学状況が公表されるのが楽しみだ。

 第一、どこかの有名大学の教授が朝早くに行動することはパフォーマンスが落ちると言ってたのをネットで見たことがある。なぜ専門的に研究をしている人の言う通りにしないのだろうか。

 そんなことを考えてると肩を叩かれる。


「希望。おはようございます」


 振り返ると同級生兼幼なじみの天埜星華あまのせいかがいた。幼稚園の頃から付き合いで、物語でよくあるように家が隣である。

 スラリと伸びた手足にクリーム色の短い髪の毛。どうやら先祖に外国人がいたらしく、その影響でクリーム色になっているらしい。華奢な体に見えるが、空手や剣道を習っているため強い。人は見かけによらずとはこのことだ。

 ちなみにドがつくほどの貧乳。


「今何か失礼なこと考えませんでした?蹴りますよ」

「いやいやいや、気のせいだよ」

「それならいいんですけど」


 そんな会話をしながら、いつものように2人で通学路を歩く。通学路の桜は花から葉に変化している。もうすぐ春も終わろうとしている。

 学園に入学して1年と少しになるが、朝は星華と登校することは日課になっている。それだけ星華が一緒にいることが当たり前になっているということだ。

 登校時には授業内の小テストの話題とかになることが多かったが今日は違った。


「そういえば、希望は転校生が来るって知ってました?」

「えっ、そうなのか?初耳だが」

「私も昨日の放課後に聞いたんですよ。けど、微妙な時期の転校生ですよね」

「確かにな。全然区切りとかじゃないもんな」


 今は4月終わり。もうすぐゴールデンウィークになる時期だ。年度始めでもなければ、夏休み明け等の区切りでもない。こんな時期に転校生が来るなんて物語の中だけの話だ。


「こんな時期に来るなんてどんな子なんだろうな……星華聞いてたりする?」

「女の子ってことしか聞いてません」

「女の子なの!?」

「私はそう聞きましたが。てか、希望の食いつき怖いですよ」

「いや、普通だよ普通」


 謎の時期に転校してくる女子。この字列だけで男としてはテンションが上がる。これはもう運命的な何かが始まる確定演出だろう。

 転校初日の不安な時期を助けてあげたことがきっかけで仲良くなり、そのまま向こうから告白されて恋人になる。付き合った後は手作り弁当食べたり、遊園地デートとかしたりして、最終的にはあんなことやこんなことができるようになる。

 我ながら完璧なストーリーだ。まさに男の夢がとことん詰まった展開だ。


「希望……鼻の下を伸びてますよ。ひと目で転校生に変なこと考えてるのが丸わかりですよ」

「えっ!?そそそ、そんなことないよー」

「見るからに動揺してますし、目線逸れてますよ?希望は嘘つくの下手すぎです。もしかして希望って……ムッツリ変態さんですか?」

「いやいやいや、どう考えても変態じゃないしムッツリでもないだろ。脳内想像するのは自由なんだから。あっちょっ、星華さんそんな目をしないでください」


 星華の目が謎のプレシャーを感じてこれ以上は何も言えなかった。あの目は一発蹴りが飛んできてもおかしくなかった。恐ろしい。

 あと、学園に着くまで星華の視線が心なしか冷たく感じたのは気のせいだろうか。

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