露呈

季節は冬、3学期を迎えて少し経った頃、今日もなんとか無事に学校から帰宅した俺は紗由に話し掛けられた。


「悠さ、もう大丈夫だから」

「え?」


謎である。何が大丈夫なんだろうか。

そんな紗由の言葉の意味を知るのは翌日の昼休みだった。



給食の配膳が終えられ、みんな思い思いに席を移動し、俺はいつものように一人で食べようとしていると


「すいません、ちょっといいですか?」


聞き覚えのある声が教室に響き渡る。


「ご存じの方もいると思いますが、私は高崎紗由。そこの高崎悠の妹です」


紗由が2人の友人を引き連れ、上級生である俺達の教室まで乗り込んできた。


「突然ですが、皆さんに聞いて欲しいものがあります」


そう言いおもむろに、学校に持ち込み厳禁のはずのケータイを取り出し操作をすると、なんらかの音声が再生され始める。


『美宇先輩~、そういえば藤堂先輩を犯そうとした高崎先輩を見たってこの前言ってましたよね』

『うん……』

『うちらの学年にその高崎先輩の妹がいるの知ってます?どうやら兄の無実を証明しようといろいろ嗅ぎまわってるらしいんですよ~。あの子かなりしつこいから気を付けたほうがいいすよ』

『え……』

『先輩見たんすよね?なら断固として見たって言い張れば大丈夫だとは思いますけど~』

『いや私は……』

『あれ違うんですか?見たっていってなかったです?じゃないとあの子の性格からしてめんどくさいことになるかも』

『いや見たよ。見た見た』

『じゃあなんでそんな挙動不審なんすか。もし違うならちゃんと対策したほうがいいと思いますよ』

『いやだって……』

『もうめんどくさいっすね。なにがあったんすか。はっきりしてくださいよ』

『いや藤堂さんが私にそう言えって……』


高圧的な後輩と気弱そうな山本の会話がなおも続いていくが、決定的と言ってはいいかわからないが、少なくとも俺の疑惑に一石を投じるであろう音声が再生されていた。


もういいだろうといった感じで紗由はケータイを操作し再生を終える。


「私が直接聞いても答えてくれないと思い、私と仲が良くて山本先輩と同じ部活に所属しているこの子たちに協力してもらいました。藤堂先輩、山本先輩、これどういうことですか?」


俺は辺りを見渡した。自称目撃者の山本の顔は蒼を通り越して白くなっていた。いやそれだけじゃない。俺を罵ってきた連中まで表情からいろいろな感情が見て取れた。元々興味ありません!みたいな連中は少し驚愕の色を浮かべていただけだが、そんな中一人だけ笑顔で俺を見ている生徒がいた。


「藤堂先輩、なんで笑ってるんですか?」


紗由がイライラしたようにそう尋ねると、やっとのことで俺から視線を外し


「いえ、良く調べ上げましたね。気の弱い山本さんであればこちらとしても扱いやすいと思ったのですが、その気の弱さが仇になってしまいました」


それでもまだ言い逃れできなくはないと思っていたのだが、あっさりと自供とも取れることを話し始める。


「ど、どういうことだ!藤堂、山本!高崎も、今すぐ職員室までついてきなさい!」


先生は慌てて俺達に声を掛け教室を出ていく。山本は席から立つ元気すらなさそうだったが、藤堂が「行きましょう」と声を掛けると、よろけるように立ち上がる。


俺は教室の前で満足そうな顔を浮かべている紗由の前を通り「ありがとう」そう声を掛け職員室へと向かう。


その後、やはりもう隠す気はないのか藤堂はペラペラと真相を語り始めた。

藤堂が俺に襲われたっというのは嘘、狂言。山本は嘘を真実にするための協力者。藤堂は嬉しそうに肯定し、山本は泣きながら否定する地獄絵図となっていた。

そんな光景を見た被害者であるはずの俺は、怒ればいいのか悲しめばいいのかもよくわからず、顔をぐにゃっと歪ませて事の成り行きを見守っているだけだった。


そもそも藤堂、こいつはなんなんだろう。クラスでの、いや生徒全体での高崎悠無視キャンペーンで紗由を除き唯一俺に話し掛けてきた頭がおかしい女。頻繁というわけではなかったが1度や2度ではなかった。


そんな事を思い出していると一通り話は終わり、以前のように親に連絡すると先生は俺たちに伝えて今日はお開きとなった。

教室を出るなり山本は泣きながら走り去っていき、奇しくも残されたのは俺と藤堂ただ2人。


「で、お前結局何がしたかったんだよ」

「フフッ、何がしたかったんだと思います?見事当てることができれば、ご褒美あげちゃいます」


前と違い今度は答えてくれたが、悪びれた素振りなど全くない。思いのまま怒りをぶつけてやりたいという気は削がれ、こいつとはもう二度と関わりたくない、そう思いきびすを返す。


「行っちゃうんですか?すごいですよ!?ご褒美」


嬉しそうな声だけが廊下に木霊し、それはどこか残念さをはらんでいるようにも感じられるのだった。

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