諦観と虚飾の日々

3ヵ月と長いようで短い俺の非日常は一応の終幕を迎えた。


あとは幾許いくばくの事後処理をこなしただけ。


まず保護者を交えての面談が行われたのだが、以前の5者に加えて今回は、目撃者という第三者から加害者の1人へと立場を変えた山本とその母親も参加して行われた。

最初に生徒への事実確認から行われたのだが、つい先日まで泣きながら否定していたTHE気弱と形容できていた山本の雰囲気は無機質なものへと変わっていた。それはまるで先生の質問に対し『はい』と繰り返すだけの人形のようだった。


そしてそこからが大変だった。普段物静かな父さんが担任に、そして藤堂の母親に怒鳴り散らすことになったからだ。原因となったのは藤堂の母親。ただでさえ息子である俺が冤罪を着せられ怒り心頭状態の父を前に、藤堂の母親は謝罪の言葉を口にしているとはいえ、なぜか自分は加害者の親ではないとこちらを錯覚させるほど、終始憮然とした態度だったからだ。

まあそれでも結局は俺が納得したことも手伝って、相手方が賠償金を払い手打ちということで話はまとまった。父さんにはそれで満足なのかと繰り返し問われたがそれ以上は特に必要性を感じなかったから大丈夫と返した。クラスのみんなの前で真実を本人達の口から語らせる?いらないいらない。


その後、改めて山本がご両親と家に謝罪にきたが、それ以降学校で山本の姿を見ることはなかった。一応学校から籍を移したわけではないらしいが。


そして藤堂はと言えば


「私、転校することになりました。本当に今までごめんなさい」


と、謝罪の言葉を口にしたがこいつだけは到底許せない。藤堂の顔に初めて申し訳なさを感じたのがこの時なのだが、それでも何か言葉を返そうとは思わなかった。肯定にしろ否定にしろ言葉を投げかけること自体、ある意味許しを与えてしまう気がしたから。

こいつだけはそうしてはならない。


そう思い無視したはずなのだが


「ではまた!」


と、まるでまた再会する事があるのだとばかりにこの学校を去って行った。


そして周囲の様子は大きく様変わりしていた。


「わるい!なんで俺は悠を信じなかったんだ……」とか「高崎君ごめんなさい。周りの人が高崎君を悪く言うから私も逆らえなくて」だとか「悠!ごめんなさい!良ければ元のように仲良くして欲しい。また一緒に登校しよう?」なんてそれはまあ好き放題に言ってきてくれた。


俺を一切信じようともせず罵詈雑言を吐き、中には所持品に手をかけた奴までいるだろう。そん奴らに対して俺はもうビシッと!


「まあ過ぎたことだしな。俺もいろいろ思うところもあってすぐには元通りとはいかないけどこれからもよろしくな」


気付けば俺は無意識のうちにそんな言葉を繰り返していた。


最初は無視しようとしていた。だってこいつらに思うがままに感情をぶつけてどうなる。俺はこいつらにもう興味が無いし深く関わりたいとも思わないのだから。そんな俺が表面上だけの付き合いを選んでしまったのは、俺の防衛本能や恐れといった感情がそうするべきだと潜在的に判断した結果なんだと思う。


そして中学3年生に上がる頃には、時間が解決したとでも言うように俺と話す時に顔に罪悪感を浮かべる者などいなくなっていた。誰かと遊ぶことはなくなったし、学校にいても一人の時間も増え、確かに前の距離感ではなくなったが、それが俺という人間との新しい友情の形とでもいうように。


そこには以前のように気兼ねない笑顔溢れる光景が広がっていた。

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