リセット

面談が終わり帰宅してからは、父さんといろいろと話をした。

俺が話さずとも今の俺の学校での立場を想像したのか、学校を休むか、転校を考えるかなんて提案もされたが俺は大丈夫と答えた。

本音を言えばもう学校になんて行きたくない。だが不登校になってしまうとあいつらに負けた気がするし、それに今朝ほどの絶望感はもう感じていなかった。それは一種の自暴自棄なのかもしれないが。


とはいえきついことはきついのだ。そんな俺は父さんに1つだけ頼み事をした。


「でもうちの学校再来週から修学旅行じゃん?正直今行くのはきつい。休んでいいかな」


父さんはほんの少しだけ悲しそうな色を顔ににじませたが了承してくれた。修学旅行のような非日常な場で、昼間だけでなく寝食まで最低班単位で行動することを考えると、割り切ってもう大丈夫だと思い込もうとしてる今の俺でもさすがに無理というものだ。


ひとしきり父さんとの話も終わり、紗由とも少しだけ話した後俺は自室に戻った。


月曜からの学校について思い耽る。おそらくというか、確実に状況など改善されていないだろう。もしかしたらいじめにだって発展するかもしれない。でもあいつらにわかって欲しいとはもう思わない。示談だって成立した。あとは学校を卒業するまでの1年半を耐えればいい。もしも耐えれないレベルのいじめに合えばその時に考えよう。


そう思いながら、ケータイを手に取る。


『別れよう。月曜から登校も一緒にしなくていい。今までありがとう』


紅葉にそうメールを入れ、家族以外で最も強かった繋がりを断つ。


あと考えるべきは部活動だろう。今は陸上部に所属しているが、既にもう続けるつもりなどない。

2年生ながらに駅伝のレギュラーに選ばれているし今まで頑張ってきたのだが、仲間にたすきを繋ぎみんなで勝利を掴み取りたい!なんて思いも消えていれば、直近に大会が控えているわけでもないので無責任ということにもならないだろう。元々は俺を見限った友達に誘われて始めた部活だしな。

うちの中学は別に部活動は強制ではないし、申請すれば問題なく退部できるだろう。


これで俺個人のことで憂うことは残ってないだろう。俺があと考えるべきことは紗由の事だけだ。

先程紗由に話を聞いたときには、まだ紗由のクラスでは俺の事は伝わっていなかったらしい。でもそれも時間の問題だろう。週が明ければ騒動の種となった俺の妹である紗由は少なからず影響を受けることになるだろう。なんとかしたいとは思うが、今の俺が行動を起こせば状況が悪化するようにしか思えない。俺のせいで妹の居場所がなくなったりしなければいいが……。



2ヵ月が経った。


俺が1番心配していた妹だが、危惧していた通りにはならなかった。

あの後状況を聞くと「大丈夫」なんて言うから本当は辛い状況なのに俺を気遣ってくれているのではないかとも思ったが、校外でも校内でも紗由を見かけた時には、周りには多くの友達がいて笑顔で溢れていた。俺の心配は杞憂だとわかり胸を撫で下ろした。


では当の本人の俺はどうたったかというと、あの後渡辺先生からクラスに向けて問題は解決したと告げられた。そこからは、一人を除き見事なまでに話しかけてくる人はいなくなっていた。一方的な悪口を会話と取るならば、俺に話しかけてくる人間はいっぱいいた、なんてある意味楽観的な見方もできるが。


幸いだったのは、肉体的ないじめに発展しなかったこと。

言葉の暴力を投げかけられる毎に心が擦り減っていくような感覚を覚えたが、耐えられない程ではなかった。いやすり減ったからこそ耐えられたのかもしれない。


そして12月の終業式を迎える頃には、当初程の悪口や視線を向けられることも減り、いない人間として扱われることが多くなっていた。なにかあったとすれば、2度程鞄とペンケースを教室の窓から投げ捨てられていたことくらいだろう。

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