第12話:不審者成敗
「ヨル君ー! 」
「兄貴ー! 」
プールから笑顔で手を振る2人に手を振り返す。柔軟で鼻血を吹き妹にシャイニングウィザードをぶちかまされた俺は、大事を取って一時休憩を言い渡されていた。
「ったく、つむぎも心配性だよなあ……」
そう言いはするものの、今までガッチガチに反抗期だった妹の唐突なデレに正直嬉しさは隠せない。
そんなこんなで意外にも平和にボールで遊ぶ2人を見ていると、背後に怪しい男がいるのに気が付いた。譜さんの後ろでそわそわと不審マックスの、その男。
何だあいつ、割って入るか。思った瞬間、男が譜さんのビキニの紐に手を掛けた。解ける、結び目。
「つむぎ!譜さんに抱きつけ!! 」
「はあ!?……!! 」
つむぎに譜さんを任せて、男の方へ。俺が気が付いたと察したらしい男は、すでに背中を向けていた。
「こ……っのクズが!! 」
逃がすものか。その一心でサンダルを引っ掴んでぶん投げる。クリーンヒットしたそれは、僅かに男の動きを止めた。
「今だ!! 」
男へ、一直線。
----------
珍しくきっちりと仕留めることのできた男が、係員に連れられていく。幸い近くに犯行の目撃者がいた為、罪状の証明はスムーズだった。
男へとタックルした際に地面で多少身体を擦ったが、その程度なんと言うことはない。今心配なのは、楽しんでいただろうに怖い思いをしてしまった譜さんとつむぎだ。
応急処置を、と俺だけ医務室に引っ張られたので、説明に向かった2人の様子は分からない。逸る気持ちを抑え、応急処置をして貰った俺は2人の元へ急いだ。
----------
「つむぎちゃん、ありがとう! 」
「あああ兄貴の頼みだったからだし!?べっつにお礼とか知らないし!? 」
「かわいいーー!! 」
「はえ……? 」
一直線に、2人の元へ。そこで目にしたのは。ハイテンションで戯れる女子達だった。
「あ!ヨル君!お帰りなさい……!怪我、大丈夫? 」
「何よ怪我なんかして!ちゃんと消毒したんでしょうね!?サンダルもよ!? 」
あれ?ダメージぜんぜん無い感じ?
いや、今は事件で張り詰めてハイになってるだけかも。そう思うも、女子2人は楽しそうで。一先ず安心した俺は、帰路につくべく2人を追った。
----------
所変わって、帰路。先を行くつむぎを2人でゆっくりと追っていると、不意に譜さんが後ろから抱きついてきた。
「う、譜さん!? 」
「ヨル君、今日はありがとう! 」
「え、あ、はい! 」
今日は散々だったろうに、お礼を言ってくれるなんて。そう呑気していた俺に、譜さんの言葉がぽとりと落ちる。
「怪我、ごめんね。……解かれるのは、ヨル君がよかったなあ……」
「……!! 」
震える、声。ああ、やはり。彼女は傷ついていたのだ。なのに、俺の怪我なんて気にして。たまらなくなった俺は、ぐるり、と体の向きを変えた。
「譜さん!! 」
「ひゃ……!? 」
「俺、俺……!譜さんが俺を守るって言ったくれたように、俺も譜さんを守ってみせますから!無理だけは、しないでください! 」
「……! 」
「譜さんが辛いの、俺、嫌です」
俺の言葉にだろうか、譜さんの瞳が潤む。その涙を拭おうとしたその時、後ろから誰かの手が伸びた。
「グエェェッ!?って……つむぎィ!? 」
「何ひどい目にあった女の子泣かせてんのよ!!バカ兄貴!! 」
「これは違……チョークスリーパーなんてどこで覚えたァ……!! 」
「成敗!! 」
決まる技に、降参のタップ。とんだ勘違いなのだが、譜さんが笑っているので良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます