第9話:同族寄らば危うし







「よりによってお兄ちゃんを奪った泥棒猫が吸血鬼ぃ!?ふざけないでよ!!……あーッッ!!『マーキング』までしてる!!私だってお兄ちゃんの吸った事無いのに!! 」

「まさかヨル君のこんな近くに吸血鬼が居ただなんて……ねえねえ、つむぎちゃんって呼んでもいーい? 」

「ダメに決まってんでしょ!?あんたよくこの流れで言えたわね!? 」


「……」


 衝撃のバッティングから、ちょっと。とりあえず双方に俺から紹介をして譜さんから掛かるやもしれぬ疑いを晴らしたところ。なのだが。


「まっさかつむぎも吸血鬼とはなあ。世界って狭いわ」

「呑気!? 」


 予想外の新事実に、俺は若干の置いてきぼりを食らっていた。


「あーもう最悪最悪!!兄貴も簡単にマーキングされてんじゃないわよ馬鹿!! 」

「そもそもマーキングって何だ? 」

「〜〜!! 」


 俺の言葉に、つむぎがそんな事も教えてないの!?このドロボー!(何て言い様だ)と息巻く。

 何だ?マーキングってそんなにヤバいものなのか?考える俺に、譜さんの朗らかな声が掛かった。




「マーキングって言うのはね、吸血鬼の習性のひとつなの。専用契約って言うと分かりやすいかな」

「……ああ!この人は私だけのものですー!みたいな?……っ!! 」

「う、うん……」


 譜さん、専用。

 言ってしまって恥ずかしくなった俺につられてか、譜さんもかあっと赤くなる。うわ、可愛い。


「な・に・赤くなってんのよ!! 専用餌ですってマークなのよ!? 」

「ヨ、ヨル君は餌じゃないよ、つむぎちゃん……!! 」

「ちゃん付けす・る・な!! 」




 激昂するつむぎ、怖え。

 しかし譜さんなら餌扱いでも専用ってだけでイイよなあ。そんな風にデヘデヘと考えていると、つむぎの口から突拍子も無い言葉が飛び出した。


「マーキングされてるとねえ、その吸血鬼以外とじゃイけなくなんのよ!?コイツがその気になんなきゃ兄貴一生童貞なんだから!!童っっ貞!! 」

「ブッッ!? 」




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「お前、その歳ではしたないぞ!!一体どこでそんなん覚えて」

「うっさい!!あーあーあー!!折角夏休みだから」


 逢いに、きたのに。

 思わずと言った風に漏れたつむぎの本音に、ぐ、と俺のシスコンメーター的なものがみみみと上がる。

 と同時に、譜さんから実にこれまた唐突な言葉が放られた。


「つむぎちゃん、お兄ちゃんに逢えなくて寂しかったのね……!そうだ!それじゃあ皆で遊びに行きましょう! 」


 それなら全員寂しく無いわ!海がいいかな?プールかな?

 そんな朗らかが過ぎる譜さんのど天然マイウェイっぷりに、俺たちきょうだいは揃って白旗を上げたのだった。






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