第8話:妹、襲来







「あー!暑! 」

 時は過ぎて、夏休み。


 事実と異なり何故か「俺がアホゴリラをのした」事になって、数ヶ月。筋骨隆々アホマッチョに勝ったという噂のせいかゴリラの模倣系男子も現れず、俺は譜さんとの楽しい学生生活を存分に謳歌していた。


 そして、待ちに待った夏休み。


 バーベキュー、キャンプ、小旅行。そして何より海・プール!ビバ水着!という事で、暑いと唸りつつも俺の気分は最高潮だった。


 ……最高潮、だったのだが。


「うわー兄貴の部屋ショッボぉい!非リアの部屋ってマジやだあー」

「……」


 何あろう「妹」の襲来で、俺のテンションはがくりと萎んでしまったのだった。




----------




「おい、つむぎ。お前何しに来たんだよ」

「うはー!ペンガないの?ペンガ!一人寂しく使ってないの!? 」

「ねえよ!どこで覚えたそんなもん! 」

「つか兄貴の髪ウケるんだけど。大学デビュー?ダッサ!髪色だけじゃモテないっつの」

「イキってアッシュに染めてて悪かったな!!そうだよモテなかったよ!! 」


 生多つむぎ、16歳。父親が海外の人らしくピンクブロンドのツインテールに赤いつり目がぱちりと映える、俺の義理の妹だ。


 連れ子同士で血は繋がっていないのもあってか俺とは比べ物にならない美少女で、俺をまるでショボショボ童貞くんと言わんばかりの扱いをしてくる困った奴である。図星だけど。


 小さい頃は懐いてくれてそりゃあ可愛かったのに……と一人ため息をついて居ると、飾っていた譜さんの写真を見咎めたらしい妹が意地悪そうに口を開いた。


「わ!何これこんな美人に片思いしてんの?無理無理!諦めなよー。兄貴じゃ不釣り合いだって」

「舐めんな!俺の彼女だわ! 」


 不釣り合い。そんなのわかってるっつーの。しかし悔しがれ妹。どっこいその人は俺の彼女だもんな!今日初めて言い返すことのできる自慢材料に胸を張ると、何故か妹が黙り込む。


「……んん? 」


 不自然な沈黙にはて?と首を傾げて、一瞬。妹の悲痛な声が、俺の狭いアパートに響き渡った。




「う、ええ、そんなの、そんなの……嘘だああああ!! 」

「はあ? 」




----------




「お兄ちゃん、私のお兄ちゃん……!! 」

「は、おい、つむぎ? 」

 

 何言ってんだこいつ。いや今5年ぶりくらいにお兄ちゃんて。思う間も無く、つむぎが俺に抱きついてくる。


「やだやだやだ、あんな女のものなんて嫌ああああ!!私の、私のお兄ちゃん!! 」

「つむぎ!? 」


 何だこれ、噂のツンデレか?そう呑気に構えていた俺の顔に、涙目のつむぎの顔が近づいた。


 そして、下がって、首筋――

 あれ、なんか既視感?そう思った数秒後、凄いタイミングでドアが開かれた。


「ヨルくん!おはよう!今日はどこに――」

「譜さん!? 」


 ヤバい、浮気を疑われる!!そんな不安を抱いた俺を尻目に、何故か真っ先に女性二人のセリフがかち合った。


「「……ッッ同族……!! 」」




「……へ? 」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る