第7話:俺<<譜さん


 





「ぐす……うええええん……」

「あの、譜さん!譜さん……? 」


 何だ、この状況。

 言いたいことは多々あれど、まず浮かんだ言葉はそれだった。


 ゴリラにボコられてたら譜さんが来て、つい先程までゴリラをボコってた。筈だ。


 そんな緊迫のエグいシチュエーションから一転、俺は今譜さんの腕に抱かれやわらかい譜さんの体を堪能中、と言った所なわけで。




 譜さんが泣いているのも相まって、俺の脳内は絶賛混乱中だった。


「えーとあの、譜さん? 」

「ぐす……」


 駄目だ、話せる感じじゃない。

 しかし、この混乱の中でも彼女の言葉の一端から、泣いている理由だけは推測できた。


(多分、あのアホゴリラが譜さんに振られた腹いせに俺をボコしたと思って責任感じてるんだろうなあ)


 だとしたら、由々しき事態である。俺は今まで譜さんが人をこっぴどく振ったという話を聞いたことがない。となれば、今回のことはあのバカゴリラが10割悪い逆恨みなのであって。彼女が責任を感じることは1ミリもない事案なのだ。


(何とか譜さんの気持ちを晴らさないと……! )


 俺の気持ちの整理は、後回し!そう舵を切って、俺は譜さんへと声をかけた。


「譜さん」

「……」

「俺、嬉しかったですよ!俺の為に譜さんが怒ってくれて」

「……ヨル、君」


 俺の言葉に、譜さんからやっと言葉がこぼれた。

 譜さんが怒ってくれて嬉しかったのは本当だ。それ以上にビビったと言うのはまあ秘密にしておくとして、俺の本音を譜さんにぶつける。


「……正直情けなかったんです。あのゴリラに好き放題言わせておいてギャフンとも言わせられないなんて。何と言うか、俺ってヘボいなー……と」

「そんな事ないよ!ヨル君は譜のために……! 」


 言い切らないうちに、譜さんの目がまた潤む。はて、血が目当てと言っていたのに何故こんなに譜さんは俺なんぞに心を傾けてくれて居るのだろう。


 今更ながら過った少々場違いの疑問にこそりと首をひねって居ると、おもむろに譜さんが口を開いた。


「……譜、ね。実は……一目惚れだったんだ」

「はい……ん、ええ?? 」




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「ひ、一目惚れ……? 」

「……血が魅力的なのも確かにあったんだけど。新歓の時の挨拶が可愛くて、顔も、仕草も大好きで……その、守って、あげたくなって」

「え?守……? 」


 いや、守ってあげたい系??初めて言われる言葉に内心ひっくり返る俺を前に、なおも譜さんは言葉を紡ぐ。


「ヨル君はこんな理由嫌がるかなあって思って隠してたんだけど、ヨル君がこんな目に遭ってるの見たら耐えられなくって……! 」

「譜さん……」

「だから、ね。ヨル君」


 血をもらう代わりに、譜にヨル君を守らせて。


「……!! 」


 アホゴリラの襲撃から予想外の方向に転がりに転がった事態は、何と譜さんの男前な騎士宣言で幕を閉じたのであった。






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