第6話:ゴリラ<<吸血鬼







「ねえ、これ……どういうこと? 」

「譜さん、逃げ……ぐえッ!? 」


 譜さんが、危ない。挑発しまくった後の最悪のタイミングで、鉢合わせてしまうとは。

 せめて呼びかけだけでもと譜さんに向けた言葉は、ゴリラの蹴りで吹き飛んだ。ちくしょう。この脳筋ゴリラマンめ。




「よお夜辺譜、ゴミに用か?それとも俺にしとくか?今なら許してやってもいいぜえ、俺を振ったのをよお」

「お、前……! 」


 あれだけ譜さんを侮辱しておいて、よくもしゃあしゃあと。ゴリラの言葉にそう苛立つも、反撃する元気もない。


 こんな状況を見て、譜さんは何を思っているのだろう。そう考えて、彼女を仰ぎ見る。


「……!! 」

「ああ? 」


 仰ぎ見た、彼女は。

 恐ろしいほどに無表情だった。




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「……随分、派手にやったんだね」


 怖い。怖くて、譜さんの顔が見れない。それ程までに怜悧な無表情。そのままの状態で、譜さんは言葉を紡ぐ。


 そんな譜さんの様子の気がついているのかいないのか、彼女の言葉にゴリラが自信満々といったていで言葉を返した。




「弱っちくて話にならなかったぜえ? お前を侮辱するなだのピーピーほざいてたけどなあ! 」

「……そう」


 絶対零度。譜さんの表情を形容する言葉があるならこれだ。重ねての冷たい返答に流石に何か思うところが有ったのか、この辺りでゴリラの挙動が少し焦ったものになった。そして。


「何だよ!さっきから大人しくしてりゃあいい気になりやがって!やっぱてめえもゴミにお似合いのビッチでェっ!? 」


 言い返して、数秒。汚い言葉とともに、ゴリラが唐突に宙を舞った。



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「えっ……え? 」

 重量マッチョが、あのクソゴリラが、あんなに高く。思う間も無く、放物線を描いて下ってきたそれに、もう一撃。可愛らしいワンピースを翻し、奴の腹が変形して背にまで響くほどの打撃を喰らわせたのは。他でもない譜さんだった。


「……譜のヨルくんに今度何かしたら、許さないから」


 譜さんが、うずくまって呻くゴリラに冷たく吐き捨てる。程なくして、這々の体で逃げるゴリラ。そして、そんなゴリラを呆然と見送った次の瞬間、俺は譜さんの腕の中にいた。




「ふぁへ!? 」

「わーんヨル君!!痛かったよね、ごめんね!譜のせいで……! 」


 




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