第5話:横恋慕未遂ゴリラ




 



 譜さんの、談によると。吸血鬼に噛まれて気持ちよかった場合、その人間と吸血鬼は細胞レベルで相性バッチリなのだそうだ。


「相性……」

 あんなに焦がれて、ついに交際まで漕ぎ着けた女性と、バッチリ。正直嬉しすぎて運を非常に使った感が否めない。


 大胆な行動の多い譜さん自身からの刺激も相まって、4コマ目の頭の中は譜さん関連の思案で一杯だった。


「今日はこの後何も無いんだよなあ……」

 至極、暇。結論づけた、刹那。誰かと肩がぶつかった。




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「う、わ!すみません! 」

「…………」

「? 」


 謝罪すれど、応えがない。

 何だ?ちょっと失礼な人だな。そう思って相手を見上げた事を、俺は少々後悔した。


(え、いや、めっちゃ怖……!! )

「てめえ……夜辺譜の彼氏ってのは本当か」

「え、ええ!? 」




 譜さん!?何で、今。まさかこの人、知っててわざと!?まさかまさか。そう思いつつも、頭は一つの答えを弾き出す。

『こいつ、「お前ごときが夜辺譜を」とか思ってる系の人だ……!! 』




「……チッ。冴えねえガキじゃねえか。俺を振って選ぶのがコレかあ? 」

「ひっ!? 」

「んだよ、見た目通り弱っちいなあ! 」


 突き飛ばされて、尻餅。相手をよくよく見てみると、ゴリラもかくやと言いたくなるような重量級のマッチョマンだった。あ、これ死んだ。思う間も無く、頭を鷲掴まれて悲鳴を上げる。


「お前みたいなゴミがOKで俺が振られるなんざ面目丸つぶれって奴だよなあ!?俺に恥かかせやがって、てめえ!! 」

「め、滅相もございません……うぎゃッ!? 」


 おまけとばかりに、蹴り一発。もうだめだ、土下座でもして切り抜けられないだろうか。そんな情けない考えが過った、のだが。


「夜辺譜、あのクソアマもだ!見る目がねえくせにお高くとまりやがって、なあ!?どうせビッチだろ、クソビッチ!! 」

 目の前のクソゴリラの言葉に、俺の中で色々なものが吹っ飛んだ。




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 めしょ。


 音にすれば、そんな情けない具合だろうか。しかし、油断しきっていただろうアホゴリラにそれは確かにめり込んだ。


「くっそ……俺はともかく、振られたからって相手に当たるなよ!みっともない! 」

「て……めえ!! 」


 俺にとっては渾身の、振り絞った残念パンチ。効かないことは織り込み済みだが、何もしないより気分がずっといい。


 ああ、ゴリラ、怒ってるな。マジ死んだかも。まあ、いいや。やる事はやったんだ。後はもう一丁言葉でも吐いてやろう。


「譜さんはな、お前なんかには勿体無いくらい最高の女性なんだよ!俺だって正直棚ボタだ!でもな、彼氏として彼女が侮辱されるのだけは絶対に許せないんだよ!この狭量タコゴリラ! 」

「〜〜!! 」


 よし、言い切ってやった。あとはもうどうにでもなれだ。そうしてボコられる覚悟を決めた、その時。


「な、に、してるの……? 」

「譜、さん……! 」


 場に、彼女の声が落ちた。






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