第3話:お弁当とサークル棟
「あー……眠……」
日付は変わって、朝2コマ目のちょっと前。必修系講義以外は全て2コマ目以降を取っているが為にすっかり朝寝坊に慣れきった頭で、俺は遅めの登校と洒落込んで居た。
「ヨル君ー!おはよう!」
「……!お早うございます!譜さん! 」
ぐだり半端な空気の流れる売店前に、可憐な花一輪。その花に話しかけられて、自然な流れで腕を組まれる。俺の彼女、譜さんだ。
なんだあれ、あの夜辺譜に彼氏!?と言わんばかりにざわつく周囲。優越感がないと言えば嘘になる状況に、先程までの眠気は何処へやら。自然と口の端が持ち上がった。
「ああ、逢いたかった!ヨル君、次は講義入ってる? 」
そう俺に問う譜さんは、梅雨が近いからか透け感のある薄手のカーディガンに、ひらりとしたワンピース。それにゆるりと編み上げた長髪がとても映えていた。うん、今日も眩しい。
「あ、はい。今から講義で……けど次は4コマなんでちょっと開くんですよね」
「そうなの?よかった……! 」
自分の言葉に返された彼女の答えに考える。これはまさか、ランチデート的なもののお誘いだろうか?高鳴る胸に是と言うかの如く、場の注目を一心に集めているだろう目の前の銀糸が跳ねる。
「お弁当 、作ってきたの!良かったら一緒に食べない?……ふたり、きりで」
「!! 」
前半は明るく、最後は俺にだけ囁くように。告げられた言葉は、俺の期待の上を行っていた。
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「そ、そろそろかな……!」
売店前で羨望とその他諸々の視線を受けて、1コマ後。
昼は誰も居ないから、と指定された譜さんの所属する文芸サークルスペースで昼ごはんと洒落込むべく、サークル棟の前で待つ。
新歓でヘマって以来サークルというものに縁遠かった俺にとっては、初めてのサークル棟内部への特攻だ。
ボロいけど中ってどうなってるんだ?本当に無人?とりとめもないことを考えて入口脇に突っ立っていると、学部棟側からぱたぱたと走る譜さんが
目に入った。
「ごめんね!教授の話が長引いちゃって……!」
「いえいえ全然!あの先生、雑談長いですもんね」
ああ、息が少し上がってるのもまた良いなあ。そう考えつつまたも受ける周囲の視線を受け流していると、唐突に譜さんが俺へ抱きついた。
「もう、逢いたかったよー!ヨル君! 」
「うわあああ!? 」
(本当に譜さん、俺の血目当て!? )
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「はいヨル君。あーん」
「あ、あー……」
「おいしい? 」
「ひょ、ひょへも! 」
所変わって、サークル棟内部。「ボロい」というイメージはそのままながら、一部の部屋を除きサークル間の仕切りは衝立のみという開放感溢れる(言って仕舞えば準筒抜け状態の)立地で俺と譜さんはお弁当デートと相成っていた。
「あーん」
「あ、あー」
昨日から思って居た事ではあるのだが、譜さんは異様に距離が近い。爪楊枝の先にちょこん、と刺さったミートボールを享受しながら抱いた感想だ。
これは、所謂吸血鬼距離とでも言うものなのだろうか?なんとか慣れてきた頭でそう考え始めたその時、譜さんから特大の爆弾発言が投下された。
「……ね、ヨル君」
「はい? 」
「ここで……しちゃ、だめ? 」
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